やさしい嘘のその先に
「本当の事を言ったら……きっと美千花(みちか)は僕を受け入れられない」

 ややしてポツンと付け足された言葉に、美千花は泣きそうになって。

「ど、ういう、……意味?」

 ギュッと唇を噛み締めたら、口中に鉄臭い血の味が広がって一気に気持ち悪くなった。

 急に真っ青になった美千花に、律顕(りつあき)が慌てて看護師を呼びに行って。
 美千花は涙目でそんな夫を見遣りながら、(ナースコールで呼んでよ、律顕。お願いだから私から逃げないで?)と思った。


***


 夕方――。

「一旦入院に必要なものとか取りに帰って来るね」

 そう律顕が声を掛けてきた時、美千花(みちか)はぼんやりと彼を見詰める事しか出来なかった。

 何を恐れているのか分からないけれど、本音を語ってくれない律顕に、これ以上、自分は何を求めたらいいのだろう?

(律顕。何を隠しているの?)

 キュウッと胃の辺りが差し込むように痛んで、美千花は眉根を寄せて痛みに耐えた。

 美千花に向けられる眼差しは昔のまま、愛情を帯びているようにしか思えないのに。

 明らかに美千花に秘密を持っている律顕に、寂しさばかりが募る。
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