ツインソウル
図書館の新刊コーナーに緋沙子はやってきた。
目ぼしい本を見つけ、手にとろうとするとさっと大きな手が本を持っていってしまう。
もう五分早く来ればよかったと思いながら、しばらく新刊コーナーをうろつき物色したが特にこれと言って他に気になる本もなかったので外国の小説コーナーに向かった。
お目当ての作家の読みたい作品が見つかったが、よりによって上下巻の上がない。
ついてなさにとぼとぼと最後に旅行書籍のコーナーに行き、少し高いところにやっと良さそうな本を見つけ手を伸ばそうとした。
そこへまた大きな手が伸びてきて、見つけた本を触れようとした。
「ああ」 思わず声を出してしまうと、「え」 と低くかすれた吐息のような声が聞こえ、 声のする方に目をやると、頭一つ分大きな銀縁の眼鏡をかけた男が伸ばした手を止めてこっちを見る。
緋沙子は「すみません。なんでもないです」と、うつむいて男の腰あたりに目をやった。
男の左手には緋沙子が借りたかった本が全部あった。
そして今、手を伸ばしている本も。
思わず大きなため息を漏らしてしまった。
男はため息に気づき、「もしかしてこの本、借りたいんですか?」 と優しく静かに訊ねてくる。
緋沙子は子供みたいな自分の態度が恥ずかしかったが、誤魔化すのもまた恥ずかしいので「でもまた今度でいいですから」と頭をさげて去ろうとした。
男は「どうぞ」 と、高いところから本を楽々とって差し出した。
そして「僕は今日借り過ぎてるかなと思っていたので」 と優しく微笑んで言う。
紳士的な態度と眼鏡の奥の優しそうな瞳にあっさりとしているが端整な顔立ち、綺麗な立ち姿。
思わず見惚れてしまい赤面しながら緋沙子はぼんやり本を受け取った。
男は緋沙子が本を受け取ると「では」と言って立ち去ろうとしたが、ふと緋沙子の和装に目を留め、さらに袖口から覗く手首をじっと見た。
緋沙子はさっと手を下に降ろし手首を隠す。
男は「失礼」と再度言い、足早に立ち去った。
(うっかりしてた……)
緋沙子は腕時計の黒い革ベルトを弛めた。
若いころから手首を締め付ける癖があり気が付くと赤く跡が残っている。
自分でもなぜかわからないが気が付くとそうなっているのだ。着物の袖口に目を落としてから、緋沙子は図書を借り仕事へ向かった。
――智樹はさっき見た和服の女性の赤い手首を思い返していた。(色の白い綺麗な手首だったけど)
着物は薄いグレー地に水仙の絵が描かれており、モスグリーンの細そうな帯でドレスのような雰囲気だった。
はっきり顔立ちを見てはいなかったが女のこなれた和装と独特の雰囲気、そして赤い手首が智樹に濃い印象を残す。
図書館にはここ何年か立ち寄っていなかったが、また通おうかという気にさせるほどに。(いけないいけない)
珍しい自分の感情に薄く笑って図書館を後にした。
目ぼしい本を見つけ、手にとろうとするとさっと大きな手が本を持っていってしまう。
もう五分早く来ればよかったと思いながら、しばらく新刊コーナーをうろつき物色したが特にこれと言って他に気になる本もなかったので外国の小説コーナーに向かった。
お目当ての作家の読みたい作品が見つかったが、よりによって上下巻の上がない。
ついてなさにとぼとぼと最後に旅行書籍のコーナーに行き、少し高いところにやっと良さそうな本を見つけ手を伸ばそうとした。
そこへまた大きな手が伸びてきて、見つけた本を触れようとした。
「ああ」 思わず声を出してしまうと、「え」 と低くかすれた吐息のような声が聞こえ、 声のする方に目をやると、頭一つ分大きな銀縁の眼鏡をかけた男が伸ばした手を止めてこっちを見る。
緋沙子は「すみません。なんでもないです」と、うつむいて男の腰あたりに目をやった。
男の左手には緋沙子が借りたかった本が全部あった。
そして今、手を伸ばしている本も。
思わず大きなため息を漏らしてしまった。
男はため息に気づき、「もしかしてこの本、借りたいんですか?」 と優しく静かに訊ねてくる。
緋沙子は子供みたいな自分の態度が恥ずかしかったが、誤魔化すのもまた恥ずかしいので「でもまた今度でいいですから」と頭をさげて去ろうとした。
男は「どうぞ」 と、高いところから本を楽々とって差し出した。
そして「僕は今日借り過ぎてるかなと思っていたので」 と優しく微笑んで言う。
紳士的な態度と眼鏡の奥の優しそうな瞳にあっさりとしているが端整な顔立ち、綺麗な立ち姿。
思わず見惚れてしまい赤面しながら緋沙子はぼんやり本を受け取った。
男は緋沙子が本を受け取ると「では」と言って立ち去ろうとしたが、ふと緋沙子の和装に目を留め、さらに袖口から覗く手首をじっと見た。
緋沙子はさっと手を下に降ろし手首を隠す。
男は「失礼」と再度言い、足早に立ち去った。
(うっかりしてた……)
緋沙子は腕時計の黒い革ベルトを弛めた。
若いころから手首を締め付ける癖があり気が付くと赤く跡が残っている。
自分でもなぜかわからないが気が付くとそうなっているのだ。着物の袖口に目を落としてから、緋沙子は図書を借り仕事へ向かった。
――智樹はさっき見た和服の女性の赤い手首を思い返していた。(色の白い綺麗な手首だったけど)
着物は薄いグレー地に水仙の絵が描かれており、モスグリーンの細そうな帯でドレスのような雰囲気だった。
はっきり顔立ちを見てはいなかったが女のこなれた和装と独特の雰囲気、そして赤い手首が智樹に濃い印象を残す。
図書館にはここ何年か立ち寄っていなかったが、また通おうかという気にさせるほどに。(いけないいけない)
珍しい自分の感情に薄く笑って図書館を後にした。
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