ツインソウル
 寒暖の差が少なく温暖な静岡ではあまり美しい紅葉が見られない。
智樹はそれでも仕事の合間に山を歩き紅葉を見つけて眺める。(綺麗な赤だな。いや緋色かな)
どこかで他にも緋色を見た気がしたが思い出せなかった。

しばらくウロウロと山の中を歩き、転がっている大きな岩に腰を掛けて昨日の話し合いを思い出していた。

「久しぶり。元気そうだな」
「あがれよ。由香里も小春もいる」

 浩太は緊張した面持ちで智樹に促され家に上がった。

「パパ?」
「小春……」

 小春には浩太が来ることを伝えそびれていたので驚いた表情で浩太を見つめたが、しばらくすると特に思うところはなく久しぶりに会ったというような平常通りの顔つきになった。
 由香里と浩太は二人で重苦しい表情をしている。
これから話すことの内容が小春にとっても智樹にとっても非常に都合のよい話だからだ。

「酒でも飲むか?」

 智樹は浩太に聞いたが首を振り、「真剣な話だし、よすよ」 と言った。由香里が話し出そうとしたが浩太が制して「俺から話す」 と一言いい少し呼吸を整えてから口火を切った。

「由香里とよりを戻したいんだ」

 真剣な眼差しで浩太は智樹に訴えかけるように言う。

「都合がいいのはわかってるんだ。でも俺、由香里じゃないとだめなんだよ。もう絶対泣かさないから」

 智樹は静かに由香里の方を見た。唇を噛んで痛みに耐えているような表情だ。
小春は何が起こっているのか今一つ分かっていないような表情で大人たち三人を順番に眺めている。
小春と智樹の目が合った。

「小春。どうしようか。浩太パパのとこ帰るか?」

 小春は首をひねってうーんと唸った。

「お父さんはどうするの?」
「俺はママと結婚する前に戻るだけだよ」

 優しく言い、小春の頭を笑って撫でた。

「お父さん寂しくないの?」
「寂しくなったらみんなに会いに行くよ」
「そっか」

 小春の意見を聞いた後、智樹は浩太に告げた。



「五年前に戻ろう。もう由香里も小春も泣かすなよ」

 由香里が静かに泣き出した。

「智樹はそれでいいの?」
「こんなにいきなりで怒らないの?それとも、どうでもいいの?」
「浩太が真面目になって由香里を迎えに来るのを待ってたんだ」

 小春がそばに居るので遠慮がちに「由香里のことが好きだから、何もしないわけにはいかなかったけど」と浩太に言った。

 由香里と浩太はまるで五年前に智樹が提案した時と同じように、不思議な感覚に包まれていた。
まるでこの五年間が夢や幻のように感じられる。

「すまん」

 浩太が頭をさげた。

「いいよいいよ。楽しかったしな。俺、お前たちがいなかったら結婚とか経験できなかったと思うよ」

 心からそう思って言っているだろう、爽やかな笑顔の智樹に由香里と智樹は救われる思いがしていた。


(今週中に荷物まとめないとな)

結婚の解消と同時に借りていたマンションも出ることにした。
そして浩太と由香里と小春は浩太の実家で暮らすこととなった。
 智樹は寂しくないと言えば嘘になるが辛くはなかったし傷ついてもいない。
由香里も小春も愛してはいたが執着していなかったし浩太のことも好きだった。(これで落ち着くかなあ)
立ち上がって背伸びをし仕事場へ戻った。
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