ツインソウル
 目の前がピンク色の布地で覆われていることに気づいて、弘明はがばっと起きだしてあたりを見回した。
隣に裸の女が寝ている。
ラブホテルだった。
しかも弘明も裸だ。(しまった……)

――昨晩の記憶をたどる。

緋沙子が実家の母親が倒れたという知らせを義兄からうけて、四国に帰ってから半月が経っており、珍しく職場の飲み会に参加し楽しく飲んだ後、気分を悪くしたという後輩の北山葵を送った。
「北山さん、大丈夫?」
「はきそうです」

 つぶれてしまった葵をおぶる。気が付くとホテル街だった。(しょうがないな)

 その時は全くそんな気はなかった。
葵の住まいも分からず、背中でつぶれて眠ってしまったまま放っておくこともできず、弘明自身も相当アルコールが入っていたので休みたい気持ちと、少し介抱すればいいかという気持ちが混在し安易に目の前のホテルに入ってしまった。

その後の記憶がまだハッキリしない。

「んん」

 葵が目を覚まし始めた。逃げ出すわけにもいかず弘明は葵が起きだすのを待った。

「おはようございます。石川先輩。昨日はすごかったですね。私あんなに感じたの初めてです」

 起きた傍から淫靡な顔で葵が言う。

 弘明は動揺を悟られまいと落ち着いた様子で言葉を発した。

「北山さんも俺も相当酔ってたし、そんなこと出来なかったんじゃないかな」

「ひどーい。私の身体を見たらわかると思いますけど、ほらここ。あざになってるでしょ?」

 シーツをめくって葵は若々しく張りのある肉体を見せた。葵のウエストにキスマークらしい跡がある。(緋沙子……)
弘明がいつも緋沙子につけるマークの位置と同じだった。
「すまない」
「もー。謝らないで下さいよ。別に責任とれとか言わないですから」
「できることならなんでもするよ……」

 ため息をついて弘明は葵を見た。

普段はおっとりとした面長で地味そうな奥二重の目が、今朝は好戦的で強い光を放っている。
かつての職場の先輩である原田から緋沙子を奪おうとしたときの自分と同じ匂いがした。
 これからのことを少し想像し重苦しい気持ちを抱えながらシャワーを浴びにバスルームへ向かった。
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