ツインソウル
 なんとなく月一で図書館に通う癖ができた智樹は、ロビーに座っている紺色の紬にクリーム色の細帯を締めている和装の緋沙子を見つけた。
手にしている本は先月、智樹が借りた本だった。
つくづく趣味が合うなと思いながら静かに声を掛ける。
 ふわりと緋沙子は顔を上げて丸くて黒い目で智樹を見、挨拶を交わした。智樹は無意識に緋沙子の隣に座って、手にしている本の感想を告げた。

「その本はとても面白かったので買おうかなと思ってますよ」
「奥田さんも同じ本を何度も読む方ですか?」

 一緒に座っていると時間がゆっくり流れる気がする。

 緋沙子が短く「あら」と、言ってからバッグからハンカチを取り出し智樹の頬を拭いた。
全く自然な行為に智樹もためらいなくされるがままになってしまったが、袖口から見えた緋沙子の腕時計のベルトで赤くなった手首を見てハッとし「あ、あの……」
と、声を出してしまった。

 緋沙子も慌てて手を引っ込め「やだ。すみません。ついつい」と、ハンカチをバッグにしまった。

「さっき車の塗装してたもんで。汚れてましたか」
「塗料なんですね。すみません。職業病で……」
「占い師さんって世話焼きなんですか?」

 智樹は朗らかに笑った。

「もともとは保育士なんです。占いはこっち来てからです」
「僕が顔を汚した子供のようでしたか」

 緋沙子は恥ずかしそうに「ほんとにすみません」と、何度も謝った。

「そんなに謝らないでください。こちらこそ、ありがとうございます。ハンカチ洗って返しますよ」
「あまり汚れも取れなかったですし。お構いなく」

 智樹はつい緋沙子の手首を見てしまい「痛くないですか?」と聞いてしまった。

緋沙子はまた慌ててベルトを緩める。

「痛くはないです。これは単なる癖なので」
「なら、よかった」

 少し静かな時間を過ごしてから智樹は立ち上がった。

「じゃ、これで」
 緋沙子も立ち上がって静かにロビーから離れる。

智樹は緋沙子の後姿を見送りながら、不思議な印象を残す人だと思い、新刊コーナーに向かった。
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