ツインソウル
 佐々木浩太はホームセンターのペットコーナーにやってきた。(種類多いな)

 最近拾った雑種の子猫にドライフードを牛乳でふやかし食べさせていたが猫好きの同僚にダメ出しをされてしまったので、適切な餌を買いに来たのだった。(うーん。見ても分かんね)
「すみません」

 浩太は頭を掻きながら、商品を整頓している店員に声を掛けた。

腰をかがめていた店員が身体を起こし振り返って返事をする。

「あ……」
 由香里だった。

「由香里……」

 同じ市内でも住んでいる地区が違うため、関わりをなくしてからこんなふうに出会うことは皆無だった。

「元気だったか?小春も」
「みんな元気だよ」
「働いてるのか」
「小春もしっかりしてきたし家で居ても暇なんだよね」
「幸せそうだな」
「おかげさまで。そっちは上手くやってるの?」
「まあまあ」
「で、何?」
「猫の餌買いに来たんだけどさ。どれ買えばよくわからなくてさ」
「どんな猫?」

 浩太が猫の説明をすると由香里は何種類か味の違うドライフードと缶詰を持ってきた。

「結構いい値段するな。まあ猫一匹くらい養えるか」
「え?奥さんは?」
 (しまった……)

 黙って誤魔化そうとしたが由香里の追及は容赦なかった。
「まさか。離婚したの?」
「実は入籍もしなかったんだ」

 ため息をつく由香里の顔を見ながら(歳とっても可愛いな。なんでこいつと別れたんだっけ……)今更ながら手放してしまったことを後悔して浩太は押し黙った。

「なんで教えてくれなかったの?」
「教えることじゃないだろ。教えたところでなんにもならないし」

「まあ……そうね」
「心配すんなよ。楽しくやってるからさ。じゃ。餌サンキュ」

 浩太はそそくさとキャットフードを持ってその場を去った。
ちらっと振り返ると由香里が静かで優しく見守る視線を投げかけているのがわかる。そんな表情を改めて見てしまうとこれまでの自分の行いを後悔せずにはいられなかった。(今度が、もし、あったら……もう浮気はしないんだけどな)

頭を振ってもう二度と来ない由香里との時間を夢見そうになった自分を消そうとした。
慌ただしく会計を済ませ、帰ったら猫とでも遊ぼうと車をとばした。


 仕事を終え帰宅した智樹がドアを開けると焦げ臭いにおいが漂っていて、台所では由香里が頬杖をつきテーブルに着いていた。

「どうした?」
「焦がしちゃった。ごめんね」
「珍しいね。小春は?」
「部屋で宿題やってる。あのさあ」
「浩太とは連絡とってる?」
「とってると言えばとってるけど」
「離婚どころか入籍もしてなかったって、智樹知ってたの?」
「知ってたよ」

 由香里の表情が険しくなってくる。

「なんで二人で内緒にしてたの?」
「浩太が教えるなって言うからさ」
「今日、仕事場であったのよ。猫飼い始めたってさ。おかしいこと言い出すから問い詰めたら、結婚もしてなかったって」

 智樹は黙って由香里を見つめていた。

「なんかひどいじゃん」
「なんで?」
「なんでってさ……。なんでだろね」
 大きいため息をつく由香里のそばに行き、肩を抱いて智樹は言った。

「浩太のところへ戻りたいか?」
「え」

 険しい表情から一変して不思議そうな顔つきになる由香里を見て智樹は静かに微笑んだ。

「難しく考えなくていいと思うよ。俺も浩太も由香里が幸せになって欲しいと願った結果がこうだから。浩太に会いたかったら会ってきていいよ」
「智樹……。あんたって優しんだか冷たいんだかよくわかんないよ。」
「俺にもよくわからない。おかしいのかな、どっか。とりあえず今夜は外で飯食うか」
 近所のファミレスで仲睦まじく三人は食事を済ませて帰宅した。
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