具現術師は今日も行く!
 そんなある日、ある町で彼を訪ねて客がやってきた。

「…。」

 彼はその客二人の姿を見て思わず呆気に取られる。

 一人は伝説の剣を携え、長きマントを翻す東の若き勇者。
 そしてもう一人は、漆黒の衣服やマントに身を包んだ、近くの丘からも見えるあの魔王城の主…

「…あの、失礼ですが…東の勇者さんに、あそこに見える城の魔王さんじゃ…」

 そう思わず口をついて出てしまった。

「あ、そうですそうです、二人とも『元』ですけど」

 爽やかな勇者の返事とともに、「そうそう」と魔王も頷く。

 『元』だとしても噂に聞く、相反する二人が一緒になって自分のもとへ。

 一体どのような要件でここへやってきたのか…

「突然ですが、店の内装デザインを依頼したくて」

 爽やかに要件を告げる勇者の後ろで魔王が呑気に頷く。

「…あの〜、店??」

 またもや呆気にとられる彼。

 『元』勇者と『元』魔王が、店。
 ともに来たのだから、依頼はこの“二人”の店に決まっている。

「店を出すことになったから、使う小物や内装を発注することにしたんだ。自分たちの魔力でできないこともないけど、こちらはデザインの評判がいいって聞いて、ぜひ頼みたいんで」

 魔王はそう言い、彼に呑気な笑みで笑い掛けた。

「あ、あはは、ありがとうございます…」

 いつもは自然な愛想のさすがの彼でも、あまりのことに完全な愛想笑いになってしまった。

 話を聞けば二人は、互いに今までとは別の道を歩むことになり、意気投合。
 “店”というのは『元』勇者の店で、画家志望の『元』魔王は学校通いのままその店に住み込みで働くということらしい。
< 2 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop