Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 ネモの助けを借りて挑んだあの戦い。途中まで肉薄したと見せかけて、終わってみればかすり傷1つ負わせられなかったというのが、実際の結果だった。
 それでもまだ戦いに挑むのは、私の中に生きている理由、生きることへの執着が殆ど残っていないからだった。
 だが、死ぬのがまったく怖くないと言えば嘘になる。
 復讐に我を忘れて戦いに挑めれば、その方が気持ちは楽だったのかもしれない。
 これは最後の抵抗。命がけで戦い、せめて傷1つ刻むことができればそれでいい。もうこの世に未練などない。
 そして、もし万が一でも兄の命を刈り取るチャンスがあるのなら、その時は容赦なく道連れにしてやるつもりだった。
 やれるだけやってみせる。私を鍛えてくれたネモのためにも。
 その気持ちが、私を突き動かしていた。



 戦場で兄と対峙した私は1本の魔力剣を構え、慎重に間合いを測った。
 距離をとって対峙していても、その殺気がビリビリと伝わってくるようだった。

「チェント、もうお前に用はない。今すぐ降参するなら見逃してやる」

 先に斬りつけておきながら、この言い草。以前に2対1で勝利したことからくる余裕だろうか?

「私を無視してどこへ行くつもりなの?」
「魔王を殺す。それ以外に目的などない」

 だから早く道をあけろ、と言いたげだった。兄は何かに取り付かれたように、血走った眼をしていた。
 以前のような冷静で鋭い眼光とは明らかに違う。兄がこうなる理由には心当たりがあった。

「いいのかな? 兄さんの大切な人を殺した相手を野放しにしても」

 私の言葉に、兄は目を見開いた。

「お前がシルフィを殺ったのか……!?」

 兄は完全に初めて知ったという顔をしていた。スキルドから聞かなかったのだろうか?
 あの後でシルフィの死体を見たであろうスキルドが、犯人と私を結び付けられないわけがない。
 スキルドは言わなかったのね……。
 彼は何なのだろう? 実の妹を殺されてなお、私を庇った? 彼はどこまで甘い人なのだろうか。
 いや、今まさに兄妹で殺し合っている私が、兄妹を殺された気持ちを語るほうがよっぽどおかしい。私はそれ以上考えないようにした。

「シルフィは私が殺したの。弱くて、脆くて、あっけなかった」

 兄の目を見ながら、私はその時の様子を語った。
 兄の驚きの表情がみるみる怒りへと変わっていく。

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