Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「少し腕を斬られただけでぎゃあぎゃあ喚くから、次に左足を刺したの。そしたら悲鳴を上げてのた打ち回って。可哀想に、兄さんが近くにいれば死なずに済んだかもしれないのにね」

 次の瞬間、寒気を覚えるような殺気と共に、神速の斬撃が私のいた場所を襲った。
 私は大きく後ろに飛びのく。兄の剛剣が地面に叩きつけられて、土煙を巻き上げた。
 僅かに冷汗が流れたが、私は挑発をやめなかった。

「怒ったの? 兄さんが悪いんだよ。前の戦いの時に私を殺しておけば、シルフィは死なずに済んだのに」

 兄は激しい雄叫びを上げた。さらに2度、3度と激しい斬撃が襲い掛かる。私はそのたびに大きく後退した。こんな攻撃を相手の間合いの内側で避けていては身がもたない。
 だが、これで兄は魔王より先に私を片付ける気になってくれたようだった。
 ……行くよ!
 覚悟を決めて、この戦いで初めて私の方から前に出た。右手に1本の魔力剣を握りしめて。
 横に2度薙ぎ払い、3度突いた。兄はそれを的確にかわす。激昂したように見えても、見切りの鋭さは全く衰えない。
 しかも、以前の戦いで剣が壊されたことがあったためか、今度はこちらの攻撃を1度も受けも払いもしない。体を逸らすだけで、全て完全にかわし切っている。
 そして、脇をすり抜けるようにして懐に入ってきた兄の会心の斬り上げがこちらを襲う。これは避けられない。
 しかし──
 ガチンッ、という金属音がして、絶対に決まるはずだったタイミングの一撃は、私の背中から滑りこむようにして現れた赤い盾によって阻まれた。

「!!」

 ネモが残してくれた浮遊石の盾、最後の1枚である。
 たった1枚だが、1枚であることが私1人での制御をギリギリ可能にしていた。
 左掌に魔力を込め、盾制御に回す。そのため、剣は1本しか使えない。
 その上、戦いながらともなれば、今の私では例え盾1枚でもネモほどの制御精度は望めない。それでも、盾無しで挑むよりは遥かに希望があった。
 なにより、以前は3枚に分散していた盾強化の魔力を1枚に集中している。3倍の魔力を込めれば堅さも3倍になる……というほど単純なものではなかったが、それでも強度は遥かに増しているのは間違いない。
 むしろ、兄との1対1の戦いにおいては、防ぐ攻撃は1つでいいはずだった。これなら以前のように簡単には壊されない。

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