Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「また、こいつか!」

 兄は斬撃を上方向に受け流され、胴体ががら空きになっていた。
 すかさず、私は踏み込んで突く。だがやはり当たらない。
 なんて反応……!
 頭を狙えば首を傾けるだけでかわし、胴体を狙っても最小限の動作だけで全て避ける。
 切り札としての盾をわざわざ背中側に隠して挑んだというのに、攻撃を不意に防がれても何の動揺も誘えていない。あるいは動揺してもなお、かわしきれるだけの余裕があるということか?
 なんというしたたかさ。
 以前の戦いの時には、届かない強さではないなどと感じていたが、もうそれはまるで勘違いだったというほかない。
 それでも諦めない!
 私は右手の剣を下げ、左掌を前に突き出して進んだ。
 完全に無防備な体勢。兄の攻撃が私に向かって容赦なく繰り出される。
 しかし、その尽くを赤い盾が完全に弾き返す。私はあえて避けることをせず、攻撃もやめて、全神経を盾の制御に集中させた。
 そして、そのまま前に出る。

「どうしたの兄さん? 剣が届いてないよ?」

 兄は攻撃を弾かれるたびに後ろに押し返された。その度に私はさらに前に出る。

「ちっ……」

 兄の表情に、僅かに動揺が見えた。こちらの意図を図りかねているようだ。
 攻撃を繰り出していない私の方が、兄を後退させている。それは不思議な光景だった。
 やがて私は、兄の攻撃が弾かれた隙をついて、体が密着するほどに接近してから剣を繰り出した。この距離からなら、こちらの刃は完全に死角となるはずである。
 この攻撃ならばっ!
 だがやはり、赤色の剣閃は空を斬ってしまった。体を一瞬で腰ほどの高さまで低く屈めて、横斬りをかわす。兄の反応が、感覚がどうなっているのか、もう理解を越えていた。
 それでも、まだこれは予想の範囲内。さらに踏み込んで、ありったけの斬撃を浴びせかける。今までよりも遥かに近い間合いで繰り出される連撃に、兄の回避動作も大きくなる。やはり当たらない。掠りもしない。
 くそっ……なんで……!
 そして何故か反撃も来ないまま、兄は距離を離した。
 私の方は肩で息をしていた。

「……お前、死ぬ気か?」

 先程まで血走った眼で激昂していた兄は、冷静な声に戻っていた。まるで自分を見ているようだった。自暴自棄になって飛び出しても、戦いでいざ命の危険が迫ると冷静になってしまう今の私自身を。

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