Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「気付いてたの? 兄さん」

 今の異様に踏み込んだ斬撃は、わざと隙を作っていた。兄が反撃しやすいように。そして、そこに合わせて避けようのないカウンターを叩き込めるように。
 完全な相打ち狙い。私が狙ったそれを、兄は見抜いていたようだった。だから、反撃もなく仕切りなおした。

「怒ったフリをしても実は冷静なんだね。シルフィが死んだことも本当は、どうでもいいんじゃないの?」

 私の挑発に兄の表情が再び歪む。だが、今度はすぐに斬りつけては来なかった。

「あいつが死んだのは……俺のせいだ。俺が母さんとの約束を守れなかったから、あいつが死んだんだ。
 ……俺があいつを巻き込んだ」

 兄は最後には顔を伏せて、そんなことを言いだした。
 母との約束。スキルドが言っていたことだろう。母に私を守ると約束して、それを守れなかった。

「ふぅん。よくわかってるじゃない、兄さん。じゃ、責任を取って早く死んでくれない? 私に殺されてくれない?」

 言いながら、私は攻撃を打ち込んだ。全力を込めた一撃。本気で殺すつもりで振るう。
 だが、ガキン、と激しい音を立てて、私の赤い剣は兄の振るう剣に弾かれた。今回の戦いで初めて兄は、私の剣を自分の剣で受けたのだ。
 兄の方は踏み込むことなくその場で剣を振るっただけだが、そのただならぬ気迫を感じて私は後退した。

「……まだ俺は死ぬわけにはいかない! 俺の人生を滅茶苦茶にしたあいつを……魔王を殺すまでは!」

 言いながら兄は、ゆらり、と剣を構えなおした。

「俺は魔王を殺す。だから……だから邪魔をしないでくれ、母さん!!」
「!?」

 兄が一気に踏み込んできた。動揺する私に構わず、何度も剣を叩きつける。
 私は後退しながら必死に、赤い剣で、盾で、それらを受けた。
 母さん……?
 私を通して兄が見ているのは、その行いを咎める母の姿だというのか?

──あいつは、お前を見るたびに母親の幻影が重なるようになってしまったんだ──

 スキルドの言葉を思い出す。
 攻め続けているはずの兄の表情には、急に余裕がなくなっていた。剣が折れる危険も考えず、私の赤い剣に力いっぱい斬撃を叩きつけてくる。
 しかし、今度は攻撃の苛烈さが半端ではない。私は剣を下げ、盾の制御に集中した。
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