Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 兄の全ての攻撃を弾き返す。3倍の魔力を込めた盾は壊れない。だが、その激しい打ち込みに何度も火花が散った。

「シルフィは……あいつは俺を受け止めてくれたんだ! 俺に寄り添うと言ってくれたんだ! ……なのになんで、どうして、母さんはそんなものまで奪うんだよ!!」

 剣をぶつけながら、兄は叫んでいた。初めて聞く兄の生の感情だった。
 その悲痛の叫びはどこまでも痛々しい。
 私が制御する盾は、連撃を尽く弾き受け流していたが、やがてこちらにも疲労がたまってくる。
 兄の方は、まるで攻撃の勢いが衰える様子はない。
 ……まずい!

「おおおぉぉぉぉぉーっ!!」

 兄の全霊を込めた斬り上げは、受け流しを誤った盾を引っ掛けたまま、私の鳩尾を直撃した。

「がふっ……!?」

 鈍器となった盾が私の下腹にめり込む。盾は壊れない。私は数メートル仰け反り、膝をついた。
 息が詰まる。

「……っ!? は……げほっ……」

 地面に手をついて、何度もせき込む。うまく息ができない。
 苦しくて立ち上がれない。兄が荒い息遣いで、ゆっくりと寄ってくるのがわかった。
 ごめんなさい、ネモ。私やっぱり勝てなかった……。
 駄目だった。相打ちすらさせてもらえない。自分の不甲斐なさに涙が溢れた。
 泣き顔のまま見上げると、ゆっくりと剣を振り上げている兄のシルエットがあった。
 いつの間にか周囲は、敵味方が入り乱れる乱戦に突入していた。もう私を助けてくれる人はいない。
 私、死ぬのかな……? でも、これでネモに会えるんだよね?
 そう思えば怖くはない。しかし、涙は止まらなかった。
 この涙は恐怖の涙か、それとも……?
 振り下ろされる剣を直前まで見届け、私は目を閉じた。直後に訪れるであろう、意識の消滅を待ちながら。
 首筋に痛みが走った。だが少しチクリとしただけで、それ以上の痛みはない。首を撥ねられるというのは、こうもすぐに楽になれるものなのかと思った。
 …………。
 いや、おかしい……。
 意識があまりにもはっきりしている。体もまだ疲労を訴えてくる。戦場で戦う兵士達の怒号と悲鳴が、まだ私がこの世にいることを自覚させる。首筋の痛みも継続して、はっきりと主張してくる。私はゆっくりと目を開けた。

「!?」

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