Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 まるで、夢でも見ているようだった。
 部屋にある大きな鏡を覗くと、綺麗なドレスを着た見慣れない少女がそこに映っていた。
 私は両親が亡くなった7年前のあの日から、鏡など碌に見ていない。
 そこには、切り揃えられた母譲りの綺麗な金髪と碧い目が映り、そして伸びた身長とゆったりした服の上からでもわかる胸の膨らみが、もう自分が子供ではないことを伝えてきた。

「チェント、いるか?」

 部屋を訪ねてきたのは、スキルドだった。
 入城してから3日、スキルドは私を気遣って、毎日様子を見に来てくれていた。
 私達は、部屋のベッドに並んで腰かけた。

「ここでの生活には慣れたか?」

 スキルドの言葉に、私は首を横に振った。

「慣れるわけないよ。今までと全然違って、落ち着かない」

 正直にそう答える
 スキルドは、そうか、と相槌を打った。

「この国も王様が処刑されて、この先どうなるかわからないし、こんな生活がずっと続けられる保証はないんだよな。
 ヴィレントは、どうするつもりなんだろうか?」

 もし城が再び陥落し敵に捕まれば、私も王族として処刑される可能性すらある。
 そう思うと、逃げ出したい気持ちさえあった。

「兄さんは、どうしてるの?」

 入城してから、私は兄とほとんど顔を合わせていなかった。
 部屋の場所は聞いていたので、会おうと思えば簡単なはずだったが、兄の部屋を訪ねる理由が私にはなかった。

「あいつはベスフル兵団の作戦会議に、毎日顔を出しているみたいだけどな。昨日の夜会った時は、イラついてたな。この国の連中は腰抜けばかりだ、ってさ」

 英雄となった兄は、すっかり兵団を仕切っているようだった。
 城内は、入城した初日こそ浮かれた雰囲気があったが、翌日になるとまた不穏な空気が漂い始めていた。
 それも当たり前のことだった。
 城は取り返したものの、それは戦いが振出しに戻っただけだからである。
 一度の陥落によって王様は殺され、その他にも決して少なくない犠牲を出していた。
 この国にとっては、まだマイナスの状態で、戦争は終わっていなかった。

「これ以上戦を続けても勝ち目はない、って思っている連中が多いらしい。なんたって、相手は魔王軍だしな」

 戦の相手が魔王軍。
 私がそれを知ったのは、ここベスフルに着いてからだったが、巷では既に広まっていた情報らしい。
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