Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 私が部屋にいないのを見て、追いかけてきてくれたのだろう。
 いつも私を気にかけてくれる彼は、こんな時でもちゃんと駆けつけてくれた。
 スキルド、助けて! と、私は塞がれた口で全力で叫んだが、言葉にならないうめき声が、あたりに流れただけだった。

「ヴィレント殿には悪いが、この国にはもう愛想が尽きた。この娘は連れて行く。死にたくなければ邪魔をするな」

 ガイはスキルドを睨みつけた。
 スキルドは、一瞬たじろいだが、

「チェントは返してもらうぞ!」

 覚悟を決めたように、腰の剣を抜いた。
 ヴィレントのように強くなりたい、といつも言っていたスキルドは、度々、兄に稽古をつけてもらっていた。
 だが、大した成果は出ていないと聞いている。今回の戦にも、スキルドは参加していない。
 今も、必死に恐怖を振り払おうとしている様子が、顔に表れていた。
 2人を見比べると、明らかに体格に差があり過ぎた。
 細身で、同年代の男性の中でも背がやや低い方であるスキルドに対し、戦い慣れした体つきをしているガイは、大男と形容していい。
 スキルドは、他に人を連れてきてはいなかった。
 今、助けを呼びに戻れば、その間にガイは私を連れて、手の届かないところまで逃げ去ってしまうのだろう。
 私には、スキルドが助けてくれることを祈るしかなかった。
 スキルドが剣を抜くのを見たガイは、私を地面に放り出し、懐の短剣を取り出した。
 腰の剣は抜かない。目の前の細身の青年など、短剣で充分だと思っているようだった。
 縛られている私は1人で立つこともできず、視線だけをスキルドに向けた。
 ガイは何の緊張も見せず、ゆっくりとスキルドに近づいていく。
 スキルドは、雄叫びをあげて斬りかかっていった。
 お願い、頑張ってスキルド。
 スキルドの振り下ろした剣は、ガイの短剣にあっさりと受け流された。
 私の祈りも虚しく、ガイの短剣は、事務的な動作でスキルドの脇腹に突き刺された。

「!?」

 私は悲鳴を上げた。
 短剣が引き抜かれると、どくどくと血が溢れだし、スキルドはその場に崩れ落ちた。

「チェント…を……返……」

 彼の伸ばした手は、私には届かない。
 ガイは、勝負はついたとばかりに、スキルドに背を向けた。
 何事もなかったように私を担ぎ上げ、馬の背に括り付ける。
 私は必死に叫んだ。
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