Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 渡されたショートソードは、それでも私には重かった。
 なんとか、切っ先を胸の高さまで持ち上げた。
 姿勢を維持するだけで辛い。腕が震えている。
「振ってみろ」
 振れるわけがない、持っているだけで辛いのだ。
 だが彼は、振ってみろ、と今度は睨みながら、もう一度言った。
 必死に剣を頭の高さまで持ち上げ、ぎこちない動作で振り下ろす。
 2回、3回、と振ったところで遂に剣を落とし、へたり込んだ。

「お前に足りないのは、筋力と体力だ。まずは、その剣を楽に振れるようになることだ」

 ネモのその言葉には、呆れも怒りもない。
 早々に見限られると思っていた、いや、見限られて楽になりたいと思っていた私にとって、その言葉は意外だった。
 こうしてこの日より、私の訓練の日々は始まった。



 それから、一週間ほど経っただろうか?
 城の中庭の隅で、私はネモに言われるまま、素振りをしていた。
 振っているのは、あの時のショートソードより、さらに短い短剣だった。
 慣れたら、元の剣に戻すと言われている。
 訓練が始まったあの日から、実戦での戦い方などは、一切教わっていない。
 ただ素振りと、走り込みと、筋力鍛錬だけが続く日々だった。
 始めのうちは、疲れてすぐ休もうとする私を、ネモは叱りつけた。
 毎日へとへとになるまで、訓練は続く。
 常に見張られ、勝手に休むことは許されない。
 いつも訓練が終わって部屋に戻ると、あったはずの明日への不安などは何もかも忘れて、ただ眠った。
 訓練開始から数日が経過すると、私の方も少しずつ弱音も減り、勝手に休むこともなくなってきた。
 そして昨日あたりから、ネモは訓練内容のみ告げて、しばしば席を外すようになった。
 ずっと監視していなくても大丈夫だと、判断されたのだろう。
 今日も同じように、日課の素振りをこなしていたのだったが、

「おい」

 この日は、突然声をかけられた。
 ネモの声ではなかった。
 手を止めて振り返ると、皮鎧を身に着けた男が立っていた。
 身長は兄と同じくらい、ここ魔王領では平均的な体つきの男だった。

「な、なんでしょう……?」
「お前、スーディの娘なんだってな? あの裏切り者の」

 男の顔に浮かんでいたのは、嘲りの笑い。
 昔、治安の悪い街の裏路地で、こういう顔をした少年たちに絡まれたことを思い出した。

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