Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 地図通りに進むルートも、決して楽ではない。
 登る前は、わざと地図から外れた、険しい道を選んでやろうかとも思っていたのだが、自分には無理だろうということを、思い知る。
 地図に沿って進んでも、単身で頂上まで辿り着けば、ネモを驚かすには充分なはずだと、私は思いなおすことにした。
 まだ、先は長そうだ。
 私は、気を引き締めて進んだ。



「ふう……」

 見覚えのある景色が見えた。
 前回、ネモと訪れて、引き返した場所だった。
 あの時は、ここに着いた時、私はヘトヘトだったはずだ。
 少々疲労してはいるが、まだまだ歩けることを確認する。
 前とは違う自分を確信して、希望が湧いてきた。
 意気揚々と、前に踏み出そうとしたその時、前方から近づいてくる、何かの気配がした。
 私は、気配のする方に注意を向け、ショートソードに手を掛けた。
 霧のせいで、まだ姿ははっきりと捉えられない。
 だが、シルエットから、それが、人ではなく、獣のようだということは、わかった。
 ここに来るまでに、青い狼3匹、紫の猪1匹に遭遇し、なんとかやり過ごすことができている。
 どれも、私が住んでいた土地では目にしたことがない見た目をしていたが、訓練の成果か、正面から戦っても対処できた。
 魔王領周辺に棲む獣は、私の知るそれらと見た目は似ていても、実は遥かに凶暴なのだが、元いた土地では戦いとは無縁だったこの時の私は、それに気づかない。
 そして、緊張する私の前に、次に姿を現したのは、熊のような体躯を持った、真っ黒な狼だった。
 なんて大きさなの……!?
 それは、ヘルハウンド、別名"地獄の番犬"と呼ばれる、魔王領周辺に生息する特に凶暴な肉食獣だったが、この時の私はそんなことは知らなかった。
 ヘルハウンドは、こちらを見つけると足を止めて、じっと睨みつけてきた。
 重く感じていたショートソードが、恐ろしく頼りない。
 ヘルハウンドが吼えた。
 それは狼のものではなく、獅子のような咆哮。
 体が震えあがる。
 だが、勇気を振り絞って、私は構えた。
 睨み合いが続くかと思われたが、次の瞬間、ヘルハウンドが動いた。
 来る……!?
 巨体とは思えないスピードで跳び上がり、前足の爪を振り下ろしてくる。
 それをなんとかかわして、すれ違う。
 ヘルハウンドは、すぐに向き直り、第2撃目を加えてきた。
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