Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「はあ? 何言ってんだ? こいつを使ったのは、単に人の手で殺られた形跡を残さないためだ」

 ネモの発言に、ルンフェスは怒るでもなく、心底不思議そうにそう言った。
 聞いていた私も、そんな無意味な挑発をして、何になるのかと思うだけだった。

「今のチェントは、もうお前や俺より確実に強い。あいつ自身は気付いていないようだがな」

 何を言っているのだろう? ネモは。
 私はネモとの剣の稽古で、一度も勝ったことがないというのに。

「あいつは原石だよ。今まで教えてきたどんな奴とも次元が違う。まだまだ強くなる。いずれは、魔王様とも渡り合えるかもしれない」

 私はその発言を、ただ茫然と聞いていた。
 この人は、私を恨んでいたのではないのか? 憎んでいたのではないのか?
 直接、私を褒めてくれたことなど、一度だってなかったのに。
 何故そんな、少し嬉しそうに、私のことを話すのだろう?

「ついに目まで腐っちまったか。哀れだな、ネモ」

 ルンフェスは、冷ややかにそう言うと、やれ、とヘルハウンドをけしかけた。
 ヘルハウンドは一瞬で間合いを詰めると、ネモに跳びかかった。
 ネモは横に避けながら、抜いた剣で、辛うじてその攻撃を弾いた。
 すれ違って距離を取るも、ヘルハウンドはすぐさま追撃をかけてくる。
 ネモは左手に持っていた松明を捨てて、両手で応戦した。
 それでも、劣勢なのは変わらない。
 ネモは、相手の爪と牙を防ぐだけで手一杯のようだった。

「あの女も、こいつにまったく刃が立たなかったんだぜ? 魔王様と渡り合えるとか、寝言もいいとこだ」

 ルンフェスが嘲笑う。
 助けに入らなければ、ネモがやられてしまう。
 そう思っても、足がすくんで動かなかった。
 あの獣に襲われた時の恐怖は、まだ抜けていない。

「こんな獣など、すぐに相手にならなくなるさ。あいつの才能は、それほどだ」

 必死に攻撃を防ぎながらも、ネモはそう答えた。
 遂にヘルハウンドの爪が、ネモの左肩を捉えた。

「ぐっ……!?」

 呻き声を漏らすネモに、ヘルハウンドは容赦なく跳びかかった。

「!?」
 仰向けに組み伏せられたネモは、眼前に迫った牙を、右手の剣でギリギリで止めていた。
 駄目だ。このままでは、本当にネモが殺されてしまう。

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