Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 私は、兄の片足にしがみ付いた。
 お願い、やめて兄さん! その人は、私の大切な……
 私は叫んだ。必死に訴えた。
 私の大切な人なの! その人だけは、殺さないで! お願い!
 兄は、私の顔を蹴りつける。
 何度蹴られようと放すまいと、私は両腕でしがみ付いた。
 すると次に兄は、私の顔を上から踏みつける。
 何度も何度も、踏みつけた。
 痛い、苦しい。でも、放さない。
 いつまでも放そうとしない私の腕に、遂に兄は剣を突き立てた。
 激しい痛みに、手を放す。
 剣が引き抜かれる。私は痛みに悲鳴を上げた。
 だが、そこまで。
 それ以上の私への追い打ちはせず、兄は再びネモに向かって剣を振り上げた。
 なぜ? 私が憎いなら、私を殺せばいいじゃないか?
 あなたはなぜ、私を殺さず、苦しみだけを与え続けようとするのか?
 剣が振り下ろされる。
 もう止められない。
 刃が、ネモを切り裂いた。
 私の金切り声が響き──



 気が付くと、見慣れない天井があった。
 息が荒い。
 汗がびっしょりだった。

「大丈夫か? チェント」

 声の方に目を向けると、ネモがいた。
 そうか、あれは……夢?
 私は反射的に、ネモに飛び付いた。
 ネモは驚いたようだったが、振り解いたりはしなかった。
 温もりを、鼓動を確かめる。
 彼は確かに生きている。
 あれは間違いなく、ただの夢だったのだ。
 私はテントの中にいた。
 魔王領に侵攻してきたベスフル軍を撃つため、私達は軍を伴って出撃してきたのだった。
 接敵ポイントまではまだ距離があり、ここは道中の夜営地の中だった。
 この小さなテントには、私とネモの2人きり。
 辺りは、まだ夜のようだ。

「どうした?」

 彼の声は優しい。

「夢を見たの。あなたが、兄さんに殺される夢」

 夢で本当に良かった、と彼を強く抱きしめた。

「初めての実戦を前に、少し緊張しているだけだろう。今のお前は強い。何も心配はいらないさ」

 彼は私を安心させるよう、そう言った。
 私は抱きしめていた手を放し、彼の眼を見た。
 そして、確かめる。

「あなたも、死なない?」
「俺はお前のように強くはないが、お前が傍にいてくれれば、大丈夫だ」

 言って、彼は私の頭を撫でた。
 訓練の時は変わらず厳しい彼だったが、それ以外の、2人きりでいる時の彼はとても優しい。
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