Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 そんな大切な彼との居場所を作っているのは、ここ魔王領。
 そして、それを壊そうと迫っているのが、兄の率いるベスフル軍だった。
 ベスフル軍は、降伏させたレバス軍を吸収した連合軍となり、勢力を増して魔王領に迫っているという。
 絶対に負けるわけにはいかなかった。
 もっとも現時点で、魔王領内でベスフル軍に敗北する可能性を考えている者は、殆どいないようだ。
 これまで、ベスフル軍と直接戦ってきたのは、魔王軍に従属していたレバス軍であり、魔王軍は、一部の兵と兵糧を貸し与えていたに過ぎない。
 ベスフルとレバスの連合も、戦いを続けて疲弊した軍同士が寄せ集まったにすぎず、ほぼ無傷の魔王軍が負けるわけがないというのが、こちらの人々の見解だった。
 兄が魔王軍に敗れるなら、それでいい。
 あそこに私の居場所はないのだから。

「ごめんね、私から言い出したことなのに。情けないよね」

 私は、ネモに向かってそうこぼした。
 今回の出陣は、私自ら希望したものだった。
 ネモは、最初は、かつての仲間たちと戦うことになる私を気遣って、戦いに参加しなくて済むように計らうつもりだったようだ。

「放っておいても、ベスフル軍は負けるだろう。元の仲間たちの悲惨な姿を、わざわざ見に行く必要はない」

 ネモは、私にそう言ってくれた。

「ううん、あの場所にいるのは、私の仲間じゃない。ちゃんと決別するためにも、私自身に戦わせてほしい」

 私は、確かにそう言ったはずだった。
 そう決心したはずだった。
 だが戦う前からこの有様では、何のために出陣してきたのかわからない。
 自分が情けなかった。

「それだけお前の中には、兄への恐怖が刻まれているということなのだろう」

 幼いころに刻まれた恐怖は、そう簡単に消えないものだ、とネモは私を慰める。
 彼には、私の過去のすべてを話していた。
 兄と過ごした悲惨な日々も、ベスフルでの出来事も、何もかも。

「今から戻るか? 俺とお前の2人が欠ける程度なら、許しは出るはずだ」

 彼は言った。
 そんなことをすれば、今回の出陣に私を推薦した彼の名前に傷がついてしまう。
 でも、彼はまったく気にしていないようだった。

「ありがとう。でも大丈夫。私、戦えるよ」

 あなたがいてくれるから、そう言って笑って見せた。
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