Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 ネモの推薦と、祖父である魔王の後押しにより、特例で部隊に組み込まれただけの小娘なのだ。
 左下に見える山間道は、静かなものだった。
 そこをベスフルの部隊が通れば、すぐにわかる。
 崖の上から敵を待ち伏せし、頭上から弓矢を降らせ、反撃を受ける前に離脱する。
 私達の部隊に与えられた任務だった。
 谷に入る前の部隊長の説明を思い出す。

「我々は、このポイントで敵部隊を待ち伏せる」

 そう言って、部隊長は地図の一箇所を指した。
 そこは、敵から発見されにくく、また発見されても、よじ登るには困難な断崖絶壁の上だという。
 残る2部隊が、反対側の丘から突撃し、一撃離脱を試みる。
 それを空から矢で援護し、2部隊の離脱を確認したところで、こちらも撤退するという手筈になっていた。
 待ち伏せのポイントまでは、半日ほど歩くと聞いている。
 だが──
 半日経たぬうちに、私達の部隊は足を止めることになった。
 先頭が足を止め、後ろを歩く私達に合図を送る。
 敵を発見したという合図だった。
 全員が息をひそめ、見つからぬよう、体を伏せる。
 見ると、左下の丘の上を、ベスフルの兵士たちが歩いているのが見えた。
 人数は、こちらよりはわずかに多いが、小部隊だった。

「敵も待ち伏せに備えて、偵察部隊を出していたようだな」

 ネモが小声でささやいた。
 待ち伏せポイントに到着する前に、敵を発見した。
 それはすなわち、敵の進軍速度は、こちらが思っていたより早いということだった。
 まだ敵は、こちらに気づいていないようだ。

「今すぐ、仕掛けますか?」

 部隊長たちが相談する声が聞こえる。
 彼らは迷っているようだった。
 今いるこの場所は、待ち伏せする予定だった場所と違い、敵の位置からここまで、充分駆け上ることができる坂でしかなかった。
 上側にいるこちらに利があるには違いないが、一方的に射かけるということにはなりえない。
 必ず反撃を受けるだろう。
 そして、部隊の人数の上では、僅かにこちらが負けている。
 何より、今ここまで通ってきた道は、速やかに退却できるとは言い難い道であった。
 戦って生き残るには、敵を撤退させるか、全滅させるしかないのである。
 だが悠長にしていては、敵部隊が通り過ぎてしまう。
 部隊長は決断した。

「……仕掛けるぞ」

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