Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 わかったよ、ネモ。
 私は心の中で呟いて、地面を蹴った。坂を一気に駆け下りる。

「今のお前の持ち味は、乱戦の中でこそ生きる。斬り込んで、敵の隊列を崩すことを考えろ」

 戦う前にネモに言われたことを思い出す。
 先頭にいた1人に、私は狙いを定めた。
 反射的に繰り出される槍を掻い潜り、心臓を一突き。
 返り血がドバっと噴き出す。
 戦場で、敵味方の返り血や、飛び出した内臓に動揺して動きを止めないこと。
 ネモから教わった忠告だ。
 気持ちを押し殺し、隣にいたもう1人の脇腹を斬り裂いた。
 敵をただの動物だと思うこと。
 人と戦うのは初めてだが、獣の相手なら、あの魔王山でも何度もしてきた。

「なんだ、こいつは!?」

 敵兵から動揺の声が上がる。
 返り血に染まり、赤い剣を振り回す私の姿は、相手にとって死神のようにでも映るのだろうか?
 さらにもう2人を、同時に斬り伏せながら、そんなことを考える。

「落ち着け! 敵は1人だっ! 一斉に掛かれ」

 気付けば、私は、敵部隊の真ん中まで斬り込んでいた。
 完全に囲まれている状態である。
 私を目掛けて四方八方から、槍が、剣が、次々と繰り出された。
 流石の私も、背中に目は付いていない。
 正面と左右からの攻撃はかわせても、死角からの一撃には、対応しようもないはずだった。
 私が正面からの剣を避けながら、左右の敵を斬り裂いた時、私の背中を狙って突き出された槍は、その体を刺し貫くはずだった。
 大丈夫、ネモが守ってくれる。
 だがその攻撃は、飛来したそれによって、受け流されてしまった。

「なんだ、あれは!?」

 その時槍を防いだのは、私の周囲を漂う、3枚の赤い盾だった。
 人の頭ほどの大きさを持つ3枚の盾は、私を包囲するように、フワフワと漂っていた。
 私は振り向いて、動揺している兵士を、一振りで斬り裂く。
 次々と上がるのは、敵兵の悲鳴や呻き声。
 残る兵士達が、必死に動揺を抑え、反撃に転じてくるのがわかった。
 だがそれらの反撃は尽く、防がれ、かわされ、そして、かわし切れない攻撃は、赤い盾によって阻まれた。
 凄い。
 私は、自身がもたらした結果に驚いていた。

「チェント、これは浮遊石という石を埋め込んだ盾だ」

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