Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
「今だ、突撃ぃーっ!」

 後方から声がした。
 魔王軍の部隊長の声だった。
 敵の士気の乱れを突いて、一気に攻め落とす気なのだろう。
 兵士達がショートソードを抜いて、一斉に駆け下りてくる。
 ベスフル兵は、完全に浮足立っていた。
 こちらの兵士の攻撃で、敵兵は次々と倒れていく。
 味方の優勢を確認してから、私は後方に下がった。

「ふう……」

 流石に少し疲れ、息を吐く。
 まだ、心臓がどきどきしていた。
 後ろから、肩に優しく手を置かれた。
 相手はもちろん、ネモだった。

「ネモ、やったよね? やれたよね? 私」

 振り向き、笑いかける。
 考えてみれば、返り血に塗れた姿の笑顔というのは、少し怖かったかもしれない。

「ああ、よくやった。誰にも真似できない初陣だった」

 褒めてくれた。
 あなたのその言葉があれば、私は何とだって戦える。
 何人だって殺せる。
 私はそう思った。
 戦いは、終結しつつあった。
 敵兵の大半は倒され、敗走を始めた兵士達が背中に矢を受けていた。

「お前達、よくやってくれた」

 戦いが決着すると、部隊長が私達に声をかけてきた。

「素晴らしい戦果だ。殆ど、お前達のおかげだ」

 出陣の時には、私達の能力に疑問を持っていたように見えた部隊長も、すっかり態度が変わっていた。

「全てチェントの戦果です。私は僅かな援護しかしておりません」

 ううん、あなたがいたから、戦えたんだよ。
 私は心の中で言った。

「うむ、初陣でこの戦いぶりとは、この先が楽しみだな」

 すっかり機嫌をよくした部隊長は、そう言って笑った。
 この戦いで、味方への被害は殆ど出ていなかった。
 完全勝利と言っていい。

「敵がこんな場所まで進軍してきたとなると、待ち伏せのポイントに着く前に、再び接敵する可能性が高いですね」
「そうだな、作戦を変更して、我々は、一度、撤退するしかあるまい」

 残りの2部隊の行方はわからないが、もっとも少数であるこの部隊ができることには、限界がある。
 このまま、谷の入り口まで撤退することになりそうだったが──

「隊長! 大変です!」

 敗走する敵に、矢を射かけていた兵士が戻ってきて叫んだ。

「何事だ?」
「敵後方に大部隊が! おそらく、ベスフルの主力部隊です!」
「なんだと!?」

< 54 / 111 >

この作品をシェア

pagetop