Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 山間道の陰から、隊列を組んだ騎馬の大群が、一斉に姿を現した。

「騎馬部隊、突撃ーっ!!」

 突撃命令に合わせて、大勢の騎馬たちが一気に駆けてくる。
 狭い山間道では、敵部隊の全体は見渡せなかったが、聞いていた話だけでも、敵主力の人数は、今のこちらの千倍近いはずだった。
 勝てるはずがない。

「まずい、全員撤退しろ! 今すぐだ、急げ!」

 こちらの部隊長が叫ぶ。
 だが、戦闘直後で隊列が乱れていた兵達に、すみやかに撤退する準備は整っていなかった。
 敵の騎馬は、坂道をものともせず、丘を駆けあがってくる。
 先頭にいた兵士数名が、真っ先に彼らの槍の餌食となった。

「チェント、逃げるぞ!」

 叫ぶネモにも余裕がない。
 崖を行けば、登り切る前に無防備な背中を刺される。
 山間道を行けば、騎馬のスピードを振り切れない。
 一斉に逃げれば、仲間を犠牲にして数人は生き残れるかもしれないが、何人が死ぬかはわからなかった。

「ネモ! 敵が!」

 私は、叫んだ。
 彼のすぐ横まで、敵の騎馬が迫っていたのである。

「うおっ!?」

 彼は辛うじて、手持ちのショートソードで、相手の槍を受け止めた。

「ネモ!」
「大丈夫だ、お前は先に逃げろ!」

 ネモは相手の槍を、歯を食いしばって受けながら、そう叫んだ。
 その間にも、新たな騎馬が次々と迫り、味方の兵が倒されていく。
 どうしよう?
 ネモを置いて、先に逃げる?
 私が逃げ切ったとして、ネモは後から追いついてくる?
 いや、この状況に取り残されて、生き延びられるわけがない。
 そもそも、私が逃げ切れる保証だってない。
 どうする? どうすればいいのか?
 私は考えた。
 そして、私は地を蹴った。

「ぐあっ!?」

 私の剣の一振りを受けて、ネモと斬り結んでいた敵兵は、血を噴いて倒れた。
 続けざまに、すぐ後に迫っていた騎兵3人を立て続けに斬り裂く。
 3人が倒れたことを確認してから、私はネモを守るようにして、2本の赤い剣を構えて立った。

「チェント、何をしている! 逃げろと言っただろう!」

 彼は、必死に叫んだ。

「お前ほどの戦士が、こんなところで命を落としていいわけがない。早く逃げるんだ!」
「ごめんなさい、ネモ」

 私は、落ち着いた声で答えた。
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