Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 先ほどの戦いの後、一度は片付けた3枚の盾を、再び取り出して浮かべる。

「手伝ってほしいの。あなたが守ってくれないと、私、死んじゃうから」

 念じて、漂う盾に魔力を込める。
 次の敵が、続々と迫ってきていた。

「だが……」
「お願い、ネモ。私が死んだら、あなたを守れない」

 盾が赤く輝き始める。

「……くっ」

 ネモが覚悟を決めたように、前に左の掌を翳すと、ゆらゆら浮いていただけの盾が、意志を持ったように、私の周囲に張り付いた。
 これで大丈夫。
 体に火が灯る。
 私は地面を蹴った。
 まず、近くに来ていた騎馬の首を落とし、落馬させる。
 騎手に止めを刺そうとすると、周囲の騎兵が一斉に私に襲い掛かってきた。
 無数の槍が、次々と突き出される。
 全ては避けきれない。
 避けきれるだけ避ける。
 残りは盾に任せる。ネモを信頼する。
 一撃だけ、体をかすめた。
 大丈夫、鎧を削られただけで、肌までは届いていない。
 騎手を斬る、騎馬を刺す、騎手と騎馬を同時に貫く。
 周囲を取り囲んだ騎兵は6人。
 それを一気に片付けた。
 多少疲労は感じるが、まだまだ戦える。

「なんだ、あれは!?」
「化け物か?」

 気付いた周りの敵兵達の注意が、一気に私に集まった。
 だが私の戦いぶりに驚いたのか、すぐにはかかってこない。
 そうだ。それでいい。
 盾を制御している間のネモは、殆ど無防備だ。
 私が敵を引きつけなければ、彼を守れない。
 私が奮戦している間にも、味方の兵士は次々と倒されていく。
 駄目だ、敵が多すぎる!
 このままでは、たとえ私が持ちこたえても、ネモにまで被害が及ぶのは、時間の問題だった。
 なんとかしなければならない。
 私は、大軍の中心に目を向けた。
 そして、そこに見つけた。
 黒い騎馬に乗った、ベスフルの兵団長の姿を。
 確か、名前はローラントという人だったか?
 私がベスフルにいた頃に、面識があった。
 直接話をしたことは、一度もなかったが。
 ベスフル軍の名目上の総大将は、あのフェアルス姫ということになっているようだったが、実際に兵を指揮しているのは、兄ヴィレントか、この人のはずだった。
 今、周囲に兄の姿はない。
 この人がこの軍を指揮していると考えて、間違いないようだった。
 私は丘を一気に駆け下り、大軍の中心に突っ込んだ。

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