Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 そう言う彼は、怒りというより、安堵の表情を浮かべていた。

「心配かけてごめんなさい」

 私が上目遣いでそう言うと、彼は私の頭を優しく撫でた。

「お前が無事で良かった」

 あなたのおかげだよ、と返した。
 彼の盾の援護がなければ、私の体はとっくに槍で貫かれていたはずだった。
 私を守るために、彼も必死に動いてくれたのだ。
 これは、私達2人で得た戦果だった。
 部隊長が、敵が戻る前に撤退する、と宣言し、全員が速やかに準備にかかる。
 私もへとへとになりながらも、ネモに支えられ、谷を後にした。



 私達の部隊が上げた戦果は、同数以上の敵部隊の殲滅と、敵大部隊を一時撤退に追い込んだことだった。
 それは、部隊の規模を考えれば破格の戦果と言って良いようだ。
 谷を抜け、魔王軍の砦にいる主力部隊と合流、部隊長が状況を報告する。
 最も少数であったはずの私達の部隊が上げた戦果に、驚きの声が上がった。
 部隊長は、今回の戦闘での私の戦いぶりを隠すことなく、そのまま砦の指揮官に伝えていた。
 直接、戦いを見ていない砦の指揮官や兵士達は、私に疑いの眼差しを向けてきたが、それも仕方のないことなのかもしれない。
 私自身も、今日の戦果には驚いているのだから。
 その後私達に、驚きの情報が、砦の指揮官よりもたらされた。

「魔の谷の作戦で生き残ったのは、お前達の部隊だけだ」

 私達とは別行動をとっていた2部隊、彼らはほぼ全滅していたのだという。
 僅か数名の生き残りが、私達より先にこの砦に到着し、その事実を伝えていたらしい。
 全滅の報告を聞いた時、私達が想像したのは、きっと先にあの大部隊と遭遇してしまい、なす術もなくやられたのだろうということだった。
 だが、その想像は違っていた。
 彼らが交戦したのは、別の部隊だった。
 彼らは、私達とは逆側の崖道を行く途中に、少数の部隊と遭遇、交戦したのだという。
 そして、彼らより人数で劣るその敵部隊に、殆ど損害を与えることなく、2部隊は全滅したそうだ。
 報告によると、その結果をもたらしたのは、敵部隊の強さというより、その先頭で剣を振るう1人の男の異常な強さによるものだということだった。

「敵にもそのような強者が? いったい何者だ?」

 部隊長が聞き返す。
 そんな話を聞かされて、私にとって思い当たる人物など1人しかいない。
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