Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 兄は皮鎧しか身に着けていない。私の剣がまともに直撃すれば、一度で勝負がつくはずだった。
 そして次の私の攻撃をかわした拍子に、兄が僅かによろけた。隙が生まれる。見逃さずに、思い切り踏み込む。
 剣を横に一閃。だが、その一撃もまだ避ける。
 なんというしぶとさ。しかし、後ろに上半身だけを大きく反らして避けたその動作で、遂に兄は体勢を崩し、膝をついた。
 次の一撃は避けられない。外さない。
 私は剣を振り上げながら、全力で間合いを詰める。
 その瞬間は、まるで時が止まっているかのように見えた。
 今、剣を振り下ろせば、全てが終わる。私の苦しみが。長年続いた地獄に終止符が打たれる。
 躊躇う理由はない。ここでやる。ここで……兄を殺す。
 さようなら、兄さん。
 私は右手の剣を……振り下ろした!
 その刃は兄の胸元をえぐり、飛び散る鮮血と共に兄の生涯に終わりを告げる。
 ……そのはずだった。
 赤い刃が兄に突き刺さる直前、兄の眼光が今までを遥かに凌ぐ鋭さを放つのを、私は見た。
 ひっ……!?
 気付くと、赤い刃は空を斬っていた。
 次の瞬間、私の眼前に迫っていたのは兄の剣の先端だった。
 もうそのスピードは、私の目で捉えられる速度を超えていた。
 あの体勢から、どうやって一瞬で立て直したのかはわからない。
 右で逆手に持ち替えられた兄の剣は、私の目玉に突き刺さろうとしていた。
 避けられない。
 だが、突き刺さるまさに直前で、赤い盾が進路を阻む。
 その突きを防いだ盾は、やはり今度もそれを受け流すことはできなかった。
 兄はこの無理な体勢から繰り出した反撃でも、盾の中心を的確に突き、受け流すことを許さない。
 盾自体は砕かれることは辛うじて耐え、しかし、その一撃は押し込まれた盾ごと私の頬を直撃した。

「!?」

 なんとか、刃は盾を貫通していない。だが、私は顔面をハンマーで殴られたように、大きく吹き飛ばされた。
 両手の剣が消滅し、私の体は地面を転がる。
 景色が回る。

「うう……っ」

 早く立ち上がらなければいけない。兄が来る。殺されてしまう。
 必死に体を起こそうとする。
 しかし、頭がくらくらして焦点が定まらなかった。
 揺れる視界の中、兄がこちらに寄ってくるのがわかった。
 まずい。このままでは。
 わかっていても、これはすぐには立て直せない。
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