Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
シルフィ
 もう涙が枯れるほどに泣きつくした。
 その後も私はネモの前で座り、抜け殻のように佇んでいた。
 ネモ……私、これからどうすればいいのかな?
 問いかけても答えは返ってこない。
 ロイオン達は、私に気を使っているのか、誰も何も言わず放っておいてくれた。
 大隊長たちは、それみたことか、といわんばかりの視線を投げかけてくるが、今の私にはもうどうでもいいことだった。
 あの日の作戦は、結局両軍痛み分けに終わった。兄の部隊の進軍が予定より遅れたため、その間に魔王軍優勢で戦いが進んだからだという。
 作戦通りに兄の部隊を敗走させていれば魔王軍の勝利だったんだ、と私達を責める者もいた。
 なら、あなた達がやってみればいい、と私は思うだけだった。
 あれから何日経ったかもよくわからないし、もう自分でもいつ眠ったのかわからない。まったく寝ていない気もするし、ずっと眠っていた気もする。
 そんな私に、近づいてくる人影があった。
 それは私の横に跪き、死んだ眼をしている私に話し掛けてきた。

「チェント様」

 魔王軍の兵士のようだが、初めて見る顔だった。
 今はネモと2人きりにして欲しいのに、彼はそんな私の気持ちは気に止めていないようだった。

「……何?」

 苦労して声を絞り出す。返事を返すのも億劫だった。

「こちらをお受け取りください」

 彼は懐から1枚の紙切れを取り出し、私に差し出した。
 私はそれを受け取ると、すぐ広げた。それは地図のようだった。

「これは……?」
「敵の本陣の位置を記した地図です」

 見ると、砦から離れた位置に印があった。

「魔王様より、これを調べてあなたにお渡しするように命じられてきました」

 魔王──祖父が……これを?

「私に何をしろというの?」

 心身ともに疲れ果てていた私は、とてもじゃないが、何かをこなせると思える状態ではなかった。

「いえ、具体的な事は何も。それをあなた様にお渡しして、後は好きにさせよと言われております」

 祖父の考えがすぐにはわからず、私は地図を見つめなおす。
 では失礼いたします、と兵士はそのまま立ち去った。
 私は地図の印、一点をじっと見つめた。
 ここにきっと兄がいる。ここに行けば兄に会える。
 私は目を閉じて考える。
< 78 / 111 >

この作品をシェア

pagetop