Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 ネモならば、行くなというだろう。彼はいつも私の身を優先に考えてくれた。
 私も、そんな彼とともに生きていたいと思った。
 だが、彼はもういないのだ。
 私はゆっくりと立ち上がった。床に横たわる彼を見る。

「ネモ……行ってくるね」

 私は砦を後にした。



 マントを羽織り、夜の荒野を1人歩く。地図に記されたあの場所をただ目指して。
 目の前に広がる灰色の荒野は薄暗い。まるで私の行く末のようだった。
 私はどこへ行くのか? ネモがいなくなった今、私が魔王領のために働く理由などないというのに。
 魔王領に身を置く以上は、私は祖父の命令には逆らえないはずであった。
 しかし、それももうどうでもいい。
 魔王領を追い出されたって構わない。
 生きることすら、どうでもよくなっていた。
 じゃあ、何故私はこんなところを歩いているのだろう?
 私はどこに向かっているのだろう?
 どこへ向かえばいいの? ネモ……教えて……。
 自問自答を繰り返しながら、おぼつかない足取りで、地図の一点を目指した。



 朦朧とした意識の中、歩き続ける。
 気が付くと少しずつ夜明けが近づき、辺りはうっすらと明るくなり始めていた。
 夜襲で不意を突けば、あるいは兄を仕留められるかもしれない。
 なんとなく、そんなことも考えながら出てきたはずだが、太陽が昇り始めてはそれも破綻している。
 まだ早朝でそれほどの明るさではないが、目的地を探してフラフラと彷徨っているうちに、闇に乗じられる時間は過ぎてしまっていた。
 元々、深く考えての出撃ではなかった。
 私がどれほど強さに自信があろうと、数万の兵士がいる敵本陣に、1人で真正面から挑んで勝ち目などあるわけがない。
 それなら、そこでそのまま果てても別に構わないと思っていたのかもしれない。
 自分自身でも何も考えているかわからないまま歩き続けると、前方に複数のテントの群れが姿を現した。
 あった。あれがベスフルの本陣だ。
 大人の身長を超える大き目のテントが多くの立ち並び、その周囲を木の柵が囲んでいる。
 陣への入口のところに松明が並び、2人の見張りが立っているのが見えた。
 まだ寝静まっているからなのか、人気が少ない。
 不意を突ければ、万が一にもチャンスがあるかもしれない。私はフードを目深に被り、見張りの兵士にゆっくりと近づいていった。

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