Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 思わず怒鳴り返していた。
 なぜ、この人にここまで言われなければならないのだろう。この人に私の苦労の何がわかるのだろう。

「威勢がいいじゃない。ヴィレントにも同じように言い返してみたら?」

 冷たく言い放つ彼女。
 悔しくて、涙が流れた。
 私の苦しみなんて、何も知らないくせに。
 直後にスキルドが帰ってきたため、話はそこで終わりになった。
 涙を流す私を見たスキルドが何事かと心配してきたが、なんでもないの、と涙を拭いてごまかした。
 この時、スキルドに泣きつかなかったのは、私なりの精一杯の意地だった。
 シルフィは、私への態度とは対照的に、兄とは仲が良かったようだ。
 皆でいる時、いつも兄の横にべったりとくっついていたし、兄の方もそれを嫌がることなく受け入れていた。
 兄とシルフィが2人で話しているところを遠目に見たことがある。
 兄はあの時、シルフィの隣で、確かに笑っていた。
 兄の笑顔など、両親が死んでからは一度も見たことはなかったのに。
 笑いあう2人を見た私の気持ちは、とても複雑だったことを覚えている。
 兄が私に手を上げなくなったのは、スキルドのおかげなのはもちろんだが、シルフィのおかげもあったのだろう。今はそう思う。
 シルフィの存在が、兄の心を穏やかにしていたのだ。それは、私には、今も昔も、決してできなかったことだった。



 2人と出会ったことで、私の生活は一変した。
 暴力に怯える必要のない、穏やかな日々が帰って来たのだ。
 そのはずなのに、私の心には、大きなしこりが残ったままだった。
 兄と2人で過ごした日々。私にとって兄は、絵本の中で見た、災いを呼ぶ悪魔のような存在だった。
 私は、悪魔に取り憑かれたかわいそうな女の子。
 果てしなく続く、苦しみの日々。
 でも、いつか王子様が現れて、悪魔を打ち倒し、私を救い出してくれる、そんなことを考えていた。
 2人は確かに、私を苦しみから救ってくれた。
 だけど、悪魔を打ち倒してはくれなかった。
 それどころか、兄は悪魔なんかじゃないと、私に訴え続ける。
 スキルドでさえも、私の前で嬉しそうに、兄を称賛した。
 彼は言った。ヴィレントは、恩人であり、憧れだと。
 私は耳を塞ぎたくなった。
 やめて。その人は悪魔なの。2人は騙されているのよ。
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