Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 兵士の数は、見える範囲で精々数十人。しかも、まともに隊列が組めていない。
 私1人でも、充分勝ち目のある戦いに思えた。
 当然、兄も姿を見せていなかった。おかげで命拾いしたといっていい。
 兄を殺しに来たはずなのに、兄がいないことで命を拾った。
 自暴自棄になって出てきたはずなのに、生き延びたことにほっとしている自分がいた。
 どれだけ心が壊れようと、戦うことで冷静さを取り戻す。私はそういう人間になってしまったのだろうか?
 戦っている間にも、次々と非戦闘員達が陣から逃げ去っていく。それは別にいい。彼女達に用はない。
 さらに1人斬り裂いた際に、勢い余って近くのテントが裂ける。
 テントの中には逃げそびれた女性が2人、震えて抱き合っていた。
 直後に後ろから兵士が2人、同時に斬りかかってくる。
 かわして腰を斬り抜ける。呻き声を上げて、あっさり倒れ伏す兵士。その間に女性2人は、這うようにして逃げ出した。
 非戦闘員に構うことはない。向かってくる兵士だけを片っ端から相手する。
 やがて、兵士達の中にも逃げ出すものが出始めた。
 こうなるともう立て直せはしない。
 本来の兵の数と陣の広さを考えれば、もう少し人数を残してもおかしくなさそうなものだが、それすらも惜しむほどの状況なのかもしれない。
 流石に逃げ出す兵までも、全ては倒せない。
 残っている敵兵は確実に数を減らしてゆき、最後は奥のテントの前で見張りをしていた兵士4人を斬り伏せて、戦いは終わった。
 ふぅ……。
 大きく息を吐く。
 減らした兵士の数は知れているとはいえ、本陣をここまで荒らされたとなれば、ベスフル軍にそれなりに損害を与えたことにはなるだろう。計らずも魔王軍に貢献したこととなってしまった。
 もう軍の勝敗など、私にはどうでもいいことのはずなのに……。
 私は最後に4人もの兵士が守っていたテントが気になった。
 入り口をかき分け、警戒しながら中を覗く。
 そこにいたのは、槍を構えた1人の女性。
 かつて生活を共にした人物。私と比べて2歳しか違わないのに、少女というには大人びた容姿をした彼女は──

「あなたは……シルフィ……」

 侵入者に怯えるシルフィ・ディバードの姿がそこにあった。



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