Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 風切り音と共に矢が直進する。遠くで騎兵が派手に吹っ飛び、倒れるのがわかった。
 魔王軍に歓声が、ベスフル軍にどよめきが起こった。
 仲間を討たれた騎兵たちが、一斉にこちらに突進してくるのが見える。睨み合いは終わり、いよいよ戦いの火蓋は切られたのだ。

「ふん。矢を恐れて後退する可能性も考えたが、敵もそこまで臆病ではないか」

 言いながら、2発目の矢を放つ。強弓から放たれた矢は、今度は2人の騎兵を巻き添えにした。恐ろしい威力。
 敵との距離が縮まったことで、さらに威力を増しているのだ。
 ベスフル軍は、激情に任せて馬を走らせたため、騎馬隊だけがまるで槍のように縦長に突出した状態になっていた。
 ランスを構え、声を上げて突進してくる兵士達。それを見ながらも、魔王軍の部隊はまだ動かない。

「任せたぞ」

 私に言って、ガイアスと周囲の味方が下がる。私だけが部隊から少し飛び出したような形になった。
 ガイアス達が下がったため、ベスフル兵たちの目標は自然と突出している私に向けられる。まだわずかに遠い。ギリギリまで引き付けなければ。
 馬の駆ける音が徐々に大きくなってくる。鎧の擦れる音、殺気立った敵兵の声。まだまだ、もっと引き付ける。
 今──っ!!

「はあぁぁぁぁっ!!」

 先頭の騎馬が後数メートルまで迫ったところで、私は両掌を前にかざした。
 これはネモから教わった、敵を直接攻撃する範囲殲滅魔法。
 空気が揺らいだかと思うと、両掌から轟音を立てて、赤色の暴風が一直線に生まれた。

「な、なんだぁーっ!?」

 大人の身長の倍以上の直径を持つ円筒形の赤い竜巻は、横向きになって騎兵を紙切れのように吹き散らしていく。敵兵と馬の怒号と悲鳴が混ざって聞こえた。
 いや、吹き散らすというより飲み込むと言った方が正しいか。竜巻は地面を筒状に抉り取り、直線に並んだ兵を錐揉みさせながら、まっすぐ後ろに押し込んでいく。
 当然、それは後ろを走っていた兵士も全て巻き込んで、馬と馬が、鎧と鎧がぐちゃぐちゃになって流されていった。
 竜巻は、範囲内のものを全て飲み込んで数十メートル押し返すと、やがて満足したように掻き消えた。

「ふぅ……」

 息を吐き、額の汗を拭う。味方から大歓声が上がった。今ので、巻き込まれた騎兵数十人が確実に戦闘不能になったはずだ。
 うまくいってよかった……。
< 96 / 111 >

この作品をシェア

pagetop