身代わり少女は主人を慕う
「うた……」

「嘘。あの日々は、夢って言うよりも、幻だって分かってる。」


それでも、私は前を向いて、歩こう。

あの幻だった日々を、胸に。


村までは一日半かかった。

「えっ?うた!?おめえ、人買いに売られたんじゃあ。」

「売られる前に、飛び出して来ちゃった。」

私は、ペロッと舌を出した。


家に戻ると、裏手に家族のお墓が、作られていた。

家はあったけれど、ボロボロになっていて。

まだ、血なまぐさい匂いが、残っていた。


「さあ、掃除。」

水を桶にくんで、私は床を力いっぱいに、何度も何度も拭いた。

「うた、手伝うか?」

心配症のはやては、毎日のように私の家を、尋ねて来てくれた。

「大丈夫。自分の家だもん。」


そうだよ。

ここが、私の生きる場所。

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