星降る夜の奇跡をあなたと

“kanade”の存在


安西 和奏 20歳 
ごくごく普通の大学3年生。
特に可愛くもなく、スタイルも良い
訳ではない。本当に普通。
そんな私が好きなもの
ケーキ、パン、お肉etc…
だけど1番好きなのは
“kanade”
アーティストだ。
kanadeは4年前から数は少ない
ものの、自ら作った曲を
動画に配信している。
去年、配信された
“ALWAYS ”で注目されるも、
未だにメディアに出る事がない。
顔もプロフィールも一切公開
されていない。
彼の存在を知ったのは、
私が高校3年生の時だ。
当時、第一希望のK大の受験に失敗。
あまりのショックに立ち直れず、
無作為に動画を見まくっていて、
たまたま見つけたのが
彼の配信した動画だった。
顔は写っておらず、機材に囲まれた 
部屋でキーボードを引きながら
歌っていた。

【挑んだ事は無駄じゃない
これはキミにとって必要な時間
前を向け
目の前にある道が1番の道】

“道標”というタイトルのその曲は
まさに自分の事を言われてる様だった。
K大に失敗して、周りは進路の事に 
触れてこない。何を言われてもきっと
嫌味にしか取れなかっただろうから 
それはそれで有り難かったが、
自分自身、どうしたらいいか
分からなくなっていた。
浪人すべきか、それとも第二希望の
T大に行くべきか。
T大には合格していた。
K大もT大も学科は同じだ。
ただ、T大は家から通えないから
ひとり暮らしになるのだ。
ただでさえ私立でお金が掛かるのに
更に費用が掛かってしまうなんて
両親に申し訳ない。
だからといって浪人するにしても
お金は掛かる。それに自分の
モチベーションが更に1年持つかも
疑問だった。

前を向け
目の前にある道…

背中を押された気がした。
名前と声しか知らない人に。
いや、名前だって本名じゃない
かもしれない。
全く面識がないからこそ、
当時の私は、自分の状況に
当て嵌まった歌詞がストン
と受け入れられたのかもしれない。

その日の夜、両親に“T大に行きたい。
ひとり暮らしになるから生活費とか
お金が掛かるけど、なるべく
節約して自炊もちゃんとする。
だからT大に行かせて下さい”と伝えた。
両親は“そんなこと、子どもが
気にする事なんてない。しっかり
頑張って来なさい。その代わり
たまにはちゃんと帰ってきて”
と快く送り出してくれた。

新生活、はじめの1週間は夜に
なると泣けてきた。今まで家族が
一緒に居ることが普通で、それが
煩わしいと感じる事もあった。
でも実際に居ないとこんなにも
不安と寂しさでいっぱいになると
いうことを知った。そんな中、毎日
“kanade”の曲を聞いて
励まされた。しっかりしなきゃと
自分を奮い立たせてた。
気持ちが落ち着きはじめると、
現実が少し見えてきて、
限られた仕送りを遣り繰りしたり、
授業に課題と大変な事もあったが、
気の合った友達も出来、
時間を作っては
“kanade”の動画を見るといった
なかなか充実した日々が
送れる様になった。





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