星降る夜の奇跡をあなたと

蓮の内側

“ガッシャーン”という大きな音で
目を覚ますと、蓮がキッチンで
何かやっている様だった。
 
「蓮?」

「あっ!起きた!?って今の音だよな。
 帰ってきて寝てるからどうしたかと
 思ったら熱があるからびっくり
 したよ。具合は?熱はまだありそう
 だよな」

「寝たら少しスッキリしたよ。
 ねぇ、さっきの音は?」

「あぁー」

蓮がバツの悪そうな顔をする。

「お粥でも作っておこうと
 思ったんだけどね。少しは料理も
 やってたんだけど、お粥なんて
 作ったことなんてなくて」

「そっかぁ。ありがとう。
 なんか、蓮にも出来ない事があるって
 安心したよ。蓮って努力家でしょ?
 全部頑張って出来るようになってる
 から。毎日コツコツ勉強してるし、
 それにノート。凄い丁寧で
 分かりやすいなって。
 ポイントは短く纏められてるし、
 重要だと思われる事は一目瞭然。
 あれ作るなら、かなりの手間が
 かかるはず。
 図書館で蓮と隣同士でやるように
 なって、蓮のノート見ちゃった」

あれ?なんだか蓮の様子がいつもと
違う気がする。自分が何かマズいことを
言ったののかもしれないと考えてると、
ふわっと蓮の香りに包まれた。

「どうした?」

「自慢じゃないんだけど、
 俺って何でも出来るんだよ」

急に!?話が見えず思わず

「うん?」

「今、自慢じゃんって思ったでしょ?」
 でもそれって天才とかじゃなくて、
 出来るように努力したからなんだけど。
 でも周りって違うんだよね。
 やってるから出来るのに、
 それが当たり前みたいに言う。
 少し成績が落ちると、お前らしくない
 って言われて。お前らしくないって
 何だよって。
 でも自分から
 “見えない所でやってるんだ”
 なんて恥ずかしくて言えなかったから、 
 それは自身が創り上げてしまった
 環境なのかもしれないけど、
 それに息苦しさを感じるように
 なって。その逃げ道が音楽だった。
 自分で買ったり、模試の結果次第で
 って親に買ってもらう約束こぎつけて
 少しずつ機材集めてさ。
 機材弄ってる間は楽しかったし、
 専門知識なんてないから、
 適当だけど、それでも曲作ってる間は
 ありのままでいられた。
 でもその逃げ道にも限界がきて、
 結局、誰も知らない所に
 いこうって逃げてきたんだ」

蓮は私を抱きしめたまま話した。
努力が努力だとも思われず、
期待され続けるそのプレッシャーは
大人ですら耐えきれない人がいる
はずた。それなのに、10代の子に
それを求め続けるなんて。
気休めに過ぎないかもしれない。
それでも伝えたかった。

「頑張ってきたんだね」

蓮の頭をそっと撫でる
 
 「蓮は逃げたって言うけど、
 それは逃げたんじゃない。
 選んだんだよ。ちゃんと自分が
 自分で居られる様に道を切り拓いた」

蓮は、おでこをずっと私の肩に
のせていたが、顔をあげた。
あまりの顔の近さに、 
心臓の音が伝わってしまうのでは
と思う程、ドクドク波打ってる…
確実に体温も上がっている…
恥ずかしさで目も反らせたくなる…
でも…
そんな私の心情などお構いなしに、
今度はおでこをを私のおでこに
合わせる。

「和奏の結果だけじゃなくて、
 過程を見て気付いてくれる所、
 すっごい好き。
 和奏の誕生日の時、
 俺の進級を努力の賜物だって言われて
 本当に嬉しかったんだ。
 ちゃんと俺自身を見てくれる人が
 いるって」

“何かお腹に入れてから薬飲んだ方が
良いから。微妙かもだけど
お粥一応食べる?”と用意してくれた
蓮の作ったお粥は、ネチョネチョ
して固まっていた。それでも、
私には美味しく感じたし、
優しい味がした。
“いつも蓮に助けてられてばっかりだから
何か返したかったのに、結局やって
貰ってばかりだね”と言うと
“俺がこうやって勉強に専念
出来るのは和奏のお陰。
和奏が毎日美味しいご飯作ってくれて
、お見送りもお出迎えも
してくれるからね。
だから早く元気になって”

蓮は“寝るまで傍にいる”と言ったが、
伝染ると嫌だからと断った。
それでも蓮は“絶対伝染らないっていう
変な自信があるから大丈夫。
それに寝たら部屋に戻るよ”と
聞き入れなかった。
私が寝付くまで、蓮はOne Treeの話を
してくれた。
嫌になって、こっちの大学に来たはず
なのに、いざ新生活が始まるという時、
不安を覚えたこと。
自分が限界だと感じたら、機材を触る
のも避けていたが、One Treeを
見つけ、そこに通うようになったら
自分がちっぽけに思えてきて、
希望を見い出せたこと。
そして、それを書き綴ったこと。
それでも曲を息抜きで作ってるとは、
誰にも言ってなかったから、私が
“One Tree”と発したときは、かなり
驚いたと。

蓮の話を聞きながら私は
いつの間にか眠りについた。
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