星降る夜の奇跡をあなたと

抑えられない想い

日中のうだる暑さよりはまだ良いが、
夜間でも蒸し暑い。そんな中、私達は
One Treeでその時を待つ。
いつもより数が少ないものの、
幾つかの流星を見る事が出来たが、
何も起こらず。
もう大分時間も経っていた為、
次の流星で何も起きなかったら、
今日は帰ろうと話していた。

「あっ!きた!」

ゆっくり線を引いている様な輝きが
流れたと思ったら、急に光を増した。
途端、私は空に浮かぶ様な感覚に
陥った。“くる”そう思ったが、
声が出ない。それでも自身の身体が
輝きを放っているのが分かる。
必死で“戻りたくない、戻りたくない”
と祈りながら、意識を手放した。

目を開けると、不安そうな顔をした蓮が
見え、そんな蓮の不安を余所に、
心底戻れなくて良かったと思い、
安堵と共に涙が流れ落ちた。
頬をつたう涙を指先で優しく
拭いながら、私が起き上がれるのを
じっと待っていてくれた。
暫くして“もう大丈夫だから”と
帰路につくことにした。
蓮が手を引き、起こしてくれたが、
私は立ち上がっても、その手を
離したくはなく、強く握った。
“帰ろっか”
蓮が手を引き、ゆっくりと
歩き始めた。
私の涙の理由を
戻れなかった事だと思ってるのだろう。

「大丈夫だよ。戻れる日が絶対くるから。
 また何度でもチャレンジすれば
 いいんだよ」

こんなに励ましてくれ、
親身になってくれているのに、
自分の邪な感情で蓮を騙している
みたいだ。
実は戻りたくないと考えているなんて、
幻滅されるだろか。
それでも、もう自分の気持ちを
抑えることなんて出来なかった。

「違うっ!違うの。きっと戻れないのは
 私のせいだ。私が戻りたくないと
 思ったから。今だって戻れなくて
 良かったって思ったの。
 目の前に蓮が居てホッとした。
 まだ一緒に居られるって。
 蓮が好きなの。
 蓮の御荷物にならないようにする。
 勉強の邪魔もしない。
 だから、ずっと一緒にいさせて。
 一緒にいたいの!」

言い終わるのと同時に繋いでいた手を
引っ張られたかと思うと、
もうひとつの手が私の後頭部を捉られ、
その瞬間、唇を塞がれた。
あの時とは全く違う、
唇の感触を味わう様なキスに、
上手く息を吸う事が出来ない。
それでも離れたくない。
私は蓮の胸元をきつく掴んだ。
唇が離れ、恥ずかしさのあまり
顔をあげられないでいると

「和奏、顔あげて?ちゃんと顔見せて」

ゆっくり顔をあげると、蓮の両手が
頬を包む。

「俺も和奏が好き。すっごい好き」

またキスを落とした。
触れるだけの優しいキス。
抱き寄せられ、今度は目元に頬に口…
私はその柔らかい感触に酔いしれた。
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