星降る夜の奇跡をあなたと

蓮の4年 ①

和奏が消えた。始めから居なかったかの様に和奏の姿はどこにもない。
和奏が居た場所には、俺があげた
ネックレスとマフラーが残っていた。

和奏と過ごした1年は本当にあっという間
だった。
One Treeで初めて会った時は、
寒空の下に寝ていて、起きたと思ったら
“ウチに行きたい”、“5年後から来た”
と突拍子もないことを言う。
“何なんだコイツ”と思った。
それでも住まわすなんて、俺はそんなに
お人好しだっただろうか。
ただ、あの状態で放り出すのは
気が引けた。同情だったと思う。
それだけだったのに、俺のスウェットを
パジャマ代わりにする姿にムラっとして
しまった俺は案外チョロいのだろか。
一緒に生活するにつれ、料理は上手いし、
少ないバイト代で遣り繰りしたり、
出来ないなら出来る事を探そうとする
一生懸命な姿には好感が持てた。
そんな和奏だからこそ惹かれるのに
時間は掛からなかった。

見たことがない洋服を着ていると
思ったら、リサイクルショップで
買ったと自慢気に言ってくる和奏。

俺の内側にすんなり入ってくる和奏。

考えている事が分かりやすい和奏。

俺の事が大好きな和奏。

どの和奏も全てが愛しい。
和奏は一般的に見て、特別容姿が良い
だとか、特別スタイルが言い訳ではない。
でもそんなのはどうだっていい。
俺にとっては唯一だし、
和奏のスタイルだって唆られる。
そんな事、俺だけが知っていればいい。
自分がこんなにも独占欲の塊だなんて
思ってもいなかった。

だからこそ和奏が戻ってからの
喪失感は半端なかった。
家に帰れば、和奏の面影が至るところに 
ある。キッキンにベットにリビング。
それでも、感傷に浸る暇など無かった。
公開予約設定しておいた物が
きちんと配信されているかを確認
しておきたかった。
投稿者名は“kanade”。
和奏の漢字から取っていた。
和奏から“One Tree”は2曲目だと
聞いていた為、この日の為に
少しずつ準備してきた“道標”。
和奏が俺に言ってくれた
言葉を綴った“道標”にした。
和奏が早く気付いてくれるよう
願いを込めた。

和奏が居なくなった翌日、
冷蔵庫を開けて吃驚した。
冷蔵庫の中に手紙が貼り付けられて
あった。

“蓮へ
1年間、幸せな時間をありがとう。
4年後、これで絶対一緒に旅行に
行こう!!
蓮、愛しています   和奏”

冷蔵庫って。この発想なんなんだよ。
中には、旅行には十分だと言える金額。
作り置きまでしてある。
しかも愛してるって。俺だって愛してる。
そう思ってても恥ずかしくて
言葉になんて出来なかった。
あぁ和奏。もうすでに触れたいよ…。
4年なんて余裕で待てる。
この想いをぶつけるかの如く、
その後はとにかく勉強に励んだ。
自分にはそれしかなかった。
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