星降る夜の奇跡をあなたと

蓮の4年 ②

3年の後期に入ろうとしたころ、
あるコメントに気付いた。
アカウント名 “わかな”
見つけてくれた!喚起に震えた。
“道標”への想いが長々と書かれている
コメントを俺は何度も読み返した。
本当は返信したかった。
でも、俺のした事で何が変わって
しまったらと思うと何も出来なかった。
とりあえず今は、年3回のアップだけは
確実にやっていかなければと、
12月にアップする曲はもちろん
“One Tree”だ。

俺が4年に進級した4月。
予定だと、和奏が入学してくるはずだ。
居ても立っても居られず、
入学式に足を運んだ。
看護科の人集りの中に、和奏の姿を
見つけた時は、不覚にも涙が
零れ落ちた。グレーのスーツに見を包み、
緊張してるであろう硬い表情。
肩の位置で切り添えられた髪型。
俺の和奏がそこに居た。
医学科と看護科は棟が違うし
同じ授業はない。偶然に会うことなど
殆どない状態で、俺は時間を見つけては
和奏の姿を見に行った。
自分の行動が可怪しいのなんて
分かっていた。それでも和奏の存在を
確かめていたかった。 

5年生になり、暫く経った頃、
去年にアップした“ALWAYS ”
を誰かが使用したことで注目されて
いるとかで、配信サイトを通じて
コンタクトがあったがメディアに
出るつもりは一切ないと断った。
“ALWAYS ”は和奏が入学してきた事で、
気持ちが溢れ、和奏との日々を
綴ったものだった。
俺が聞かせたいのは、その他大勢
ではなく和奏一人だ。
配信は年にたった3回だったが、
授業や実習に追われる日々の中で
作業するには大変だった。
それでも和奏に届ける為、
ただそれだけの為に
気力を奮い立たせた。

6年生。やっとここまで来た。
あと少し。もう少しだ。
俺が合コンを主催するのは考えられない。
だったら誰かから誘われるのだろうと
推測した。とにかく応用実習と合宿
の間に開催されるであろう合コンが
再会までに唯一接触出来る
チャンスだ。

応用実習中、同じ実習先に来ていた
友人に

「お前は腕時計の彼女がいるから
 いいけど、俺なんてこの先
 身を粉にして勉強するだけだぞ。
 癒やしが欲しい」

俺は周りには彼女が居ると言っていた。
腕時計も和奏に貰った物だし、
間違いではないはず。
煩わしい誘いを断るにも良かった。

「だから?」

「だからって。お前冷たい
 こないだ久しぶりにサークルに
 顔だけ出したんだよ。そしたら
 サークルの後輩が合コン相手探してる
 って言ってて思わず名乗り出ちゃった。
 だから付き合って。彼女いるなら、
 お前に取られる心配ないし」

きた!これだ!
弾む気持ちを抑えてあくまで冷静に問う。

「いつ?行くだけならいいよ」

友人は誘ってきたくせに、珍しい事も
あるもんだと揶揄ってきたが、
そんな事気にしてられない。

迎えた当日、目の前に和奏がいる。
それだけで顔が緩みそうになった。
“kanade”の話が出て
“大好きです”と和奏が言ったときは、
心の中でガッツポーズを決めた。
定期的に和奏からコメントは
来ており、聞いてくれているのは
分かってはいたが、実際本人の口から
聞くのは訳が違う。
途中で友人が、和奏を何処かで
会った事があると言ったときは、
まさか“あの図書館の一瞬を覚えてる?”
と焦ったが、すぐに話が流れて安心した。
帰り道はなるべく不自然にならないように
俺の近況を伝えた。対して面白くもない
俺の話に相槌したり、笑ったり、
手を繋ないだ事でなのか、若干ソワソワ
している感じがたまらなく可愛いかった。
自宅前へ着き、もう和奏が帰ってしまう
と思ったら、思わずキスをしてしまった。
それ以上進めたいが、この状態ではどうする事も出来ず、僅かに残った理性を
働かせた。
見送った後は葛藤だった。
連絡先も聞きたかった。
このまま関わりを持ちたかった。
でもそれで未来が変わり、あの1年が
無くなってしまったらと思うと
怖くて何も出来なかった。
あと数ヶ月。ここまで耐えたんだ。
これくらい何とも無いはずだと、
気持ちを掻き立てた。
 
10月、11月で行われた卒業試験も
無事に終わり、残るは2月の国家試験。
配信は、8月のアレンジアップを
最後にしようと決めていた。
和奏と接触出来た事で、万が一、
あの“ふたご座流星群”の日の
出来事が無かった事になってしまった
としても、“また一から始めればいい”
そう考えられる様になっていた。

12月14日
もうすぐ和奏が戻っただろう時間
になる。
さぁ、和奏を迎えにいこう。
馳せる気持ちを胸に
One Treeへ向かった。
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