星降る夜の奇跡をあなたと

曲が作られている場所


とりあえず、私は遠藤さんの家に
行くことに成功した。
遠藤さんの家は、私のワンルームの
部屋とは違い、広かった。
モノトーンで統一された家具が
設置されているリビングに、もう一部屋
、多分寝室であろう部屋があった。
私の荷物は、自身に掛けていた
小さいショルダーバック、その中に
入っていた財布とスマホ、
使えないであろう自宅の鍵しかない。
スマホは変わらず圏外。
さてどうする?まだ自分でも
信じられないこの状況、人に話して
理解を得られるだろうか?
でもいつ戻れるかも分からない
状況で、ここで放り出されては困る。
そもそもこんな事、1人では抱えきれ
ない。私は意を決して話す事にした。

まず、財布の中に入っていた
学生証を見せつつ、T大 看護科に
在籍している3年生であること。
あの場所には、流星群を見に来たこと。
気が付いたら遠藤さんに声を掛けられ
ていたということ。
それから自分でも信じられないが
5年後の未来から来たであろうと
いうこと。

遠藤さんは、これらの話を黙って
聞いてくれたが、やはりすぐには
信じる事は出来ないと言われた。

「One Treeはどうして知ってる?
 今まで誰にも言ったことがない」

「私が元いた世界で【One Tree】って曲が
 動画配信されていて。アーティストの
 顔もプロフィールも公開されて
 いないんですが、未来で遠藤さんに
 会った時、そのアーティストが
 あなただと確信しました。
 私があの場所を知った時、
 あの木が正にOne Treeだと思った
 んです」

遠藤さんは溜息をついた。そして
“ちょっとこっち”と寝室であろう
部屋へ呼ばれた。私がやや軽蔑する
様な眼差しを向けると
“得体の知らないヤツに手なんて
出さないから”と呆れた様に
言われた。仕方なく、呼ばれた部屋へ
行くと、予想通り寝室で広めのベッド。
でもその奥のスペースに、動画に映って
いた機材にキーボードがあった。
ずっと見ていた光景がここにある…
この場所であの曲たちが作られたんだ…
思いが込み上がってくるのと同時に
涙が流れた。

「ここから始まってたんですね。
 私、助けられたんです。
 それからは支えでした。 
 本当にありがとう、ありがとう」

涙が止まらなかった。遠藤さんは、
何も言わず、ただ黙って傍に
いてくれた。

落ち着いた所で、遠藤さんはコーヒー
を入れてくれ、そして
“まだ全部信じた訳ではないけど、
 とりあえずは、ここに居ていいよ”
と言ってくれた。住まわせて貰う事に
申し訳なささを感じたが、自分で
言ったようなものだ。ここは素直に
甘えさせて貰うことにした。
もう遅いから、細かい事は
明日にして、お風呂に入って、
寝る事にした。私はリビング、
遠藤さんは寝室。遠藤さんが
寝室に行く際、
“一緒に住むんだから、
もうちょっとリラックスして。
そんなに肩張ってたらじゃ疲れちゃうよ。
ただでさえ考えなきゃいけない事が
沢山あるんだから。名前も
“遠藤さん”なんて堅苦しいから、
“蓮”でいいよ、おやすみ和奏”

不覚にもドキっとした。
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