拗らせLOVERS
体育館

「バスケは2年3組と3年1組が午後から決勝になります」
先生がトーナメント表をかかげた


「陽和達の試合終わったかな」
俺はタオルを拾い上げた

「碧斗!決勝進出おめでとう!」
珠里さんが駆け寄ってきた

「どうもっ!」
俺は軽く頭を下げた

「そういえば、陽和ちゃん大丈夫?」

「え?」

「さっき、月島が言ってたんだけど顔面にボールあたって鼻血だして交代したって」


陽和!

俺は慌てて走り出した
 

「碧斗!……もう!陽和ちゃんの事となると人の話も聞かないし!」

珠里さんの呆れた声が背中で聞こえた



交代?

何で俺がいない時に怪我なんかしてんだよ!

あの、アホが!

サッカー舐めてんじゃねえよ!

一歩間違えば骨折だってすんだからな!!


『守る』って

おじさんに誓ったのに…





木陰に陽和と千尋の後ろ姿を見つけた


「陽和!」



「え?碧斗?」

後ろを振り返った


碧斗が息を切らしながら、物凄い血相でこちらに走ってきた



「はあ…はあ、お前…怪我したって…」
肩で息をしながら碧斗が言った


「うん…でも、大丈夫だから…痛っ!」
笑うと左の唇の切れた端っこが引きつって痛い 

保健の先生が消毒して絆創膏を貼ってくれたが痛みはおさまらなかった

「お前…ノックアウトくらったボクサーみたいな顔になってるぞ」

「ぷっ…痛っ…ちょっと、口開けられないんだから笑わせないでよ」
私は切れた口元を押さえた

「鼻血ヤバかったんだよ」
千尋が心配そうに言った


「どれ…」

「いや、もう止まったから」

鼻の穴覗かれても…

「そのタオル…」
碧斗が私の膝の上のタオルに目を落とした


「これ、プリンスがかしてくれたの」


「プリンス?」

「月島先輩だよ、マジかっこよかったよ!」
千尋が興奮して言った


「そっか… 月島先輩、今日審判に借り出されてたもんな」



「倒れた陽和をお姫様抱っこして木陰に運んで、『大丈夫かい?』ってキャ~!」
千尋が興奮して言った


「お姫様抱っこ?」
碧斗の眉間に縦ジワがくっきりと浮かんだ


「違う!違う!違ぅって!」
私は慌てて否定した

「肩をささえて木陰に連れてってくれただけだよ」
私は慌てて否定した

もう〜!碧斗に誤解されたら困る!


「今日、部活ないから帰り送ってく」


え?
碧斗、心配してくれてんの?


「良かったね陽和!」
千尋がニヤニヤ笑って言った


「ありがとう…あ、碧斗達試合は?」


「午後から決勝」


「やったじゃん!陽和応援行こうね」

「うん、あ…これ」

私は右手にしていたリストバンドを外した


「鼻血ついてないよ」 


「普通、借りたら洗濯して返すでしょ」

千尋に言われてハッとした



「ごめん!」

慌てて引っ込めようとした手を碧斗に掴まれて思わずドキリとした

「いいよ、そのままで」

「あ、いや、鼻血ついてないけど使ったし、5分しか試合出てないけど汗かいたし
洗って返すよ」


「次の試合、使いたいから」


「そっか、ごめん」
私は碧斗にリストバンドを渡した


「洗濯すんならタオルでしょ、っていうか買い替えた方がいいかもね」
千尋に言われて血だらけのタオルに目を落とす


「確かに…」


がんばって練習したのになあ

5分しか試合出てないし

挙げ句にこの顔…


左肩に碧斗の手が触れた

「陽和の分も頑張るから」

「がんばってね、応援行くから」


私は碧斗を見上げて微笑んだ





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