夢を叶えた日、一番にきみを想う
どうでもいい。
中学3年間、面と向かっては何も言ってこないくせに、廊下ですれ違いざまに舌打ちされたりわざと肩をぶつけてきたり、小さい嫌がらせをたくさんされてきた。
わざわざ仕返しをすることはなかったが、俺だって鬱憤がたまっていた。
小さく深呼吸をしてから拳に力を入れ、自分が叩かれた場所と同じところめがけて思いっ切りぶっ叩く。
市川は衝撃に耐えられなかったのか、よろめいた後、その場にしりもちをついた。

「……最低だな」

俺を見つめる目には、確かに怒りが含まれている。けれどそれ以上に、怯えというか、恐怖というか、そのような感情が含まれていることがはっきりわかって、次は俺が鼻で笑ってしまった。

「怖がるくらいなら、最初からケンカ売るなよ」
「なんだと」

俺の言葉を煽りととらえたのか、市川は立ち上がり、また俺を引っ叩こうとしたのか手を上げた。

「ちょっと君たち! 何やっているんだ! やめなさい!」

改札の方から、駅員と思われる人が早足でやって来る。
さすがに駅でケンカは目立ったか。
学校に報告されると少し面倒だな、と思っていると、市川の友達が「もう行こうよ」と腕を引っ張る。

「学校にバレたらまずいよ」

市川は最後の最後まで俺を睨みつけていたけれど、友達の一言が効いたのか、駅員が俺たちの元にたどり着く前に改札を出て行った。

「大丈夫か?」

翔は足元に落ちていたスマートフォンを拾い、「はい」と俺に手渡す。

「顔は全然。ただ、手がちょっと」

久しぶりに思いっきり殴ったからな。
骨は折れていないだろうけど、腫れはするだろう。

「……どうせなら左手で殴ればよかった」

利き手に痛みがあるのは何かと不便だ。
ポツリと呟いた俺に、「お前らしいな」と笑った。
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