夢を叶えた日、一番にきみを想う
「どうしたの、その手」

翌日、沙帆ちゃんは授業が始まる少し前にやって来ると、最後に追い込みとしてテスト範囲の単語を紙に書いていたところだった。
案の定、昨日市川を殴ってからしばらく経つと右手は腫れてきた。
ただ、不幸中の幸いで、腫れて痛みが出てきたのは、主に手のひらの甲だった。
もし腫れたのが指だったらシャーペンを握れなかっただろうから、そこは助かった。

「怪我したの?」

沙帆ちゃんは湿布を張っている俺の右手をじっと見る。

「……殴った」
「殴った!?」

沙帆ちゃんは目を見張る。

「どうして?」
「……嫌いな奴にムカつくこと言われたから」

正直に答える。
数秒の沈黙の後、沙帆ちゃんはクスクス笑った。

「なんだ、尚樹もやっぱり高校生なんだね」
「……高校生だけど?」

当たり前のことに対してどうして笑われているのかがわからなかった。

「うん、そうだね」

ただ、と沙帆ちゃんは続けた。
「いつも、落ち着いているでしょ。クール、っていうか。だから、尚樹の高校生らしいところ、初めて見たかも」

沙帆ちゃんが俺に笑いかける。
その笑顔は、当然だけど同級生が見せるものよりもずっと大人っぽくて、思わずドキッとしてしまう。

「……なあ、沙帆ちゃん、何歳?」
「私?」

何の脈略も無い質問に、沙帆ちゃんは首をかしげる。

「21歳だけど」

21歳か。
俺は16歳で、5歳差。
5歳差か。

――5歳差は、大きいのだろうか。

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