夢を叶えた日、一番にきみを想う
「そこ、わからない?」

ハッと顔をあげると、すぐ近くで、心配そうに俺を見つめる沙帆ちゃんと目があった。

「さっきから眉間に皺寄せて難しい顔しているけど、大丈夫?」
「……大丈夫……じゃないかも」
「数学?」
「うん」

沙帆ちゃんは「わからない問題があったら質問していいんだよ?」と微笑む。

「……だって、沙帆ちゃん、いつも誰かと話してるから」

ハッと口を覆う。

こんな言い方、ただの拗ねているだけだ。気持ち悪い、高校生にもなって。俺、何言ってんだろ。

「ごめ」
「なんだ、気にしなくてよかったのに」

謝罪と一緒に、“今の聞かなかったことにして”と言おうとしたのに、沙帆ちゃんは俺の言葉を遮った。

「けど、ごめんね。聞きづらかったよね?」

沙帆ちゃんは近くから椅子を持ってくると、ふわりと笑う。

「今からは尚樹タイムだよ。わからないところ、全部質問していいよ。あ、けど、前も言ったけど、物理以外ね? 物理は全くわからないから」

茶目っ気たっぷりに沙帆ちゃんは笑う。

あーあ、敵わないな、この人には。
甘やかされることに慣れていない俺は、甘すぎるこの人と一緒にいると溺れてしまいそうで、同時に、自分もこの人に同じ甘さを与えられる人間になりたいと思ってしまう。

“5歳差”をどうすれば埋められるのかを考えてしまう。

この人の傍にいたい。この人に傍にいてほしい。

初めて感じた気持ちだった。
この気持ちをなんと呼べばいいのだろう。

2年も一緒にいる実優にも感じたことの無い、この強い気持ちは、なんと名付けたらいいのだろうー…。
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