夢を叶えた日、一番にきみを想う
「駐輪場で待ってるから」
「おう」

祐樹たちが先に教室を出ていく。
俺は机の上に散乱していた教科書とノート、筆記用具を一気にリュックに詰め込むと、追いかけるように早足で靴箱へ向かった。

「あ、尚樹」

ちょうど出入口のドアに手をかけた時、教室の奥から出てきた塾長に呼び止められた。

「聞いたよ、最近英語すごく頑張っているんだって?」
「……まあ、俺なりには」

ここのところ、単語テストでも良い点をキープすることが出来ていた。
毎回100点を取ることは残念ながら出来ていないけれど、それでも初めの頃みたいに20点とか30点とか情けない点数を取ることはもうなくなった。

「吉川先生がね、この前褒めてたよ。『英語は苦手なはずなのに、凄く頑張っているんです』って」

吉川先生?
……あ、沙帆ちゃんのことか。

それよりも。

「……褒めてくれてた?」

沙帆ちゃんが? 俺のことを? 俺のいないところで?

「うん、すごく嬉しそうに褒めてたよ」
「そっか」

なんでだろう、すげー嬉しい。

「吉川先生の授業、わかりやすい?」
「ああ、うん。わかりやすい」
「へえ、そっか!」

良かった、と塾長は笑う。

「今までどの先生の感想を求めても、『普通』としか答えなかったのにね。よかった、よかった。それじゃあ、このまま吉川先生に授業担当してもらおうか?」
「うん、それがいい」

塾長は「了解」と頷く。
「引き止めてごめんね。気を付けて帰ってね」
「……あのさ」

ドアをあけようと力を込めた手を、ドアから離す。
少し躊躇いながらも、思い切って口火を切る。

「数学も沙帆ちゃんに見てもらうことって出来る?」
「数学も? うーん……」

塾長は何かを考えるように、俺から視線を逸らし、首を少し傾ける。

「数学もかあ」
「……無理?」

まあ、英語を担当してもらうだけでもちょっと大変そうだったしな。さすがに数学も担当してもらうのは難しいか。

「一度吉川先生に聞いてみる。ただ、今と同じ曜日と時間は無理かも。他の日に変わってもいい?」
「それは大丈夫。俺、部活やってないし」
「そっか。それなら吉川先生に頼んでみるよ。でも、今回も期待はしないでね?」
「わかった、ありがとう」

どうなるかな。毎回じゃなくても、たまにでもいいから数学も担当してくれたらいいのに。

校舎のドアを開けて外に出ると、一番星が輝いていた。
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