夢を叶えた日、一番にきみを想う
いつも通り授業を終えて、校舎を出ようとドアをあける。
すると一気に、湿気と熱を含んだ風が、身に纏わりついた。

「雨、止んだな」

俺の後から出てきた祐樹が、傘立てから傘を取る。
梅雨の季節はもうそこまで来ていて、これからこの湿気と暑さと戦うのかと思うと、少しうんざりした。

「これからはしばらく歩きかな」
「そうだな」

塾へは自転車で通っているけれど、さすがに雨の日は自転車に乗るわけにいかない。
自転車ではあっという間につく距離でも、歩くとなるとそれなりの距離になる。
ただでさえジメジメして良い気分ではないのに、通園も大変になると思うと、憂鬱な気持ちが益々大きくなった。

「おまたせ~」

少し遅れて出てきた佑真と合流して、塾のすぐ隣にあるコンビニに入る。
冷たい炭酸飲料を勢いよく喉に流し込むと、少しだけ生き返った気がした。

「あー、歩くの面倒だな」
「まだ歩き出して3分ぐらいだろ」
「タクシー使うか?」
「お前、暑さで頭やられたんじゃないの? そもそもお前の財布に、小銭も入ってないんじゃないの」

佑真と祐樹のふざけたやりとりを聞いていると、知っている姿を視界に捉えてしまった。

あーあ、会いたくなかったのに。どうして会っちゃうんだろう。
けど、関わるだけでも面倒だ。気付かなかったことにしたほうが良いよな。

苛立つ気持ちが自分の中でどんどん大きくなることを感じつつ、視線を逸らそうとしたとき、相手がパッと俺を見た。

その表情には、驚きと、そして不快さが滲み出ていた。

「……名城」

無視してくれればいいものを、相手はわざわざ俺の名前を呼んで近づいてくる。
小さく舌打ちしたのと、隣にいた祐樹が、「うわ、市川じゃん」と言ったのは、同時だった。

「また会うとは、僕たち何か縁があるのかな」
「別に会いたくなかったけどな」

こいつと縁があってたまるかよ。

俺の言葉に、祐樹は怪訝そうに「何? 最近会ったの?」と尋ねる。

祐樹は、俺が中学時代に市川から嫌がらせを受けていたことを知っていたから、卒業後に会っていた―偶然だけれど―ことに驚いたようだった。

「まあな、たまたまだけど」
「そう、たまたま会って、殴ってきたんだよね」
「は?」

市川の言葉に、顔をしかめる。

「先に殴ってきたのはお前だろ」
「そうだったかな。まあ、いいや。俺、あの時、お前に伝え忘れたことがあったんだよね」

市川は微笑む。
その笑顔は、いかにも意味深な感じで、気持ち悪くて反射的に眉をひそめた。
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