夢を叶えた日、一番にきみを想う
「覚えてくれていたんだ」
「当たり前でしょ」

沙帆ちゃんは、ドン、と自分の胸を叩いた。

「だからね、ご褒美にアイス、買ってあげるよ」
「じゃあ、俺らもいいですか?」

俺が返事をする前に、祐樹が横から口を挟んだ。

「マジすか! あざす!」
「いや、まだ何も言っていないけれど……」

勝手に話を進める祐樹と佑真に、沙帆ちゃんは苦笑する。

「まあ、いいか。きっと2人も頑張っているんだよね」
「そうです、俺ら毎日必死に勉強してて」
「尚樹よりも勉強しているんすよ」
「いや、それはちょっと盛りすぎだろ」

2人の軽快なやり取りに沙帆ちゃんは笑いつつ、俺は呆れつつ、そして結局コンビニへ急ぐ2人に「危ないだろ! 走るなよ!」と追いかける小竹も含め、5人でコンビニへ向かう。

「途中から、見てたよ」

先に行く3人を目で追いながら、沙帆ちゃんは口を開いた。

「きっと嫌なこと言われたんでしょ。よく手を出さなかったね、偉かったね」
「……俺、あの時」

沙帆ちゃんが呼びかけてくれていなかったら、絶対に殴っていた。

あのタイミングで声をかけてきたということは、きっと沙帆ちゃんもそのことに気づいているはずだ。
それなのに、殴ろうとしたことを叱るのではなくて、“殴らなかった”ことを褒めてくれることが嬉しいし、沙帆ちゃんらしいなと思う。
同時に、感情に任せて動いてしまった自分の心の余裕の無さに、情けなくなる。

黙りこんだ俺を見てフッと笑うと、沙帆ちゃんは俺にしか聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。

「かっこよかったよ、最後、立ち去るとき」

そんなことない。

心の中でため息をついてしまう。

むしろ、かっこ悪かった。
相手の嫌がらせに仕返しをしたり、挑発に乗ってしまったり、まだまだ幼い自分が嫌になる。

沙帆ちゃんが俺にそうしてくれるように、
“自分もこの人に同じ甘さを与えられる人間になりたい”

確かに強く思っていて、
“5歳という年齢差を埋めたい”
とも思っていた。

それなのに、差を埋めるどころか、まだまだ子どもだった。
そして、自分がいかに子どもであるかさえ、今の今まで気づいていなかった。

「俺……もう、ケンカとか、やめる」

自分に誓う為に呟いた言葉に、沙帆ちゃんは「そっか」と微笑んだ。
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