夢を叶えた日、一番にきみを想う
「もちろん夢を叶える為に勉強することは大切だよ? でも、今、少しでも『遊びたいな』という気持ちが勝つのなら、今日は勉強をお休みしてもいいんじゃないかなあ」

沙帆ちゃんの言葉に少し驚く。
だって今まで、「勉強をしたい」と言って―いや、言ったことはなかったかもしれないけれど―「勉強しなくてもいい」と言われたことはなかったから。

「私は、楽しみながら夢を叶えてほしい。“夢を叶える為の道のりが、我慢と辛さだけで出来ている”と思ってほしくないもん。それに、そんなこと思っていたら、きっと夢を叶える前に、心が折れてしまうと思う。だから、遊びたいときは遊んで、勉強したいときに勉強したらいいよ。それに、いつ勉強すべきかなんて、私が言わなくても、尚樹ならきっともうわかっているでしょ」

ああ、まただ。
どうしてこの人は、俺のことをこんなにも真っ直ぐ信じられるのだろう。
でも、だからこそ、気づいた。

「俺、やっぱり、勉強したい。今は、勉強したい」

一級建築士になりたい。今は、夢を叶える為の努力がしたい。

「わかった」

沙帆ちゃんはふわりと笑う。

「それなら教材、準備してあげる。今日は何時まで塾にいる?」
「うーん、何時までいようかな。塾が終わるまでいようかな」

学校終わりに寝たし、家を出る前にかなり遅めの昼飯も食べてきたから、元気が有り余っている。

「それなら、ここで勉強する? 自習室でもいいけれど、ここでならわからない問題が出て来た時、すぐ教えてあげられるし」
「いいの?」
「もちろん。あ、けど、途中で逃げ出さないでね。せめて私が書類作り終えるまでは付き合ってよね。それこそ結構遅くなりそうだけど」
「当たり前じゃん」

俺の答えを聞くと、沙帆ちゃんは「さすが」と笑った。

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