夢を叶えた日、一番にきみを想う
「だって、今日誕生日じゃん。沙帆ちゃん」
「……は?」
「あれ、知らなかったの? 古田が言っていたから嘘じゃないと思うけど。なあ、祐樹?」

突然話しかけられた祐樹は、「何?」と尋ね返す。

「今日って、沙帆ちゃんの誕生日だよな?」
「今日? 今日って……20日か、あー、確かそうだな。女子たちが色紙書いてた」
「マジか……」

今、21時か。塾が終わるまで後30分。

「今日、沙帆ちゃん出勤してんの?」
「どうだろう。けど、沙帆ちゃんの出勤日だし、女子たちも色紙準備しているなら出勤してるんじゃね?」

確かに。誕生日という理由で休むのは、沙帆ちゃんらしくない気もする。

「俺、行くわ」
「は?」

急に立ちあがった俺を、全員が見つめる。

「どこに行くんだよ?」
「これ、俺の分」

事前に聞かされていた金額を机の上に置く。

間に合うだろうか。
ここから塾の最寄り駅まで、ちょうど30分ぐらい。
授業終わりには間に合わないけど、駅から校舎まで歩いて5分だし、今すぐここを出て最寄り駅で待っていたら、会える気がする。
沙帆ちゃんが休みじゃなければ、会えるはず。

「わりー、また明日」

リュックを背負う暇なく走り出す。

「尚樹!」

店の外に飛び出ると、背後から実優が俺の名前を呼ぶのが聞こえた。
――聞こえたけれど、俺は振返らずに走った。
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