たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
︎✴︎


時折、話している時に秀斗はじっと顔を見てきて、何か言いたそうにする。
切長の涼やかな知的な目。

彼に全部話してしまおうか、と迷いが生じる彼女を、その迷いごと受け止めてくれるような、余裕のある強さと優しさが彼には感じられる。

押し倒されたあの時ですら、怖さは感じなかった。
的確な指示に従う心地よさ、だったのだろうか。

彼の包容力にぐらりと心が揺らぐ。
守られ愛されたらどんなだろう。
この人に助けてもらいたくなって、甘い考えが何度も何度も浮かんでしまう。
それを心に必死で押し込める。

秀斗は“甥”もしくはどこの子かわからない赤ん坊であったが、愛情をちゃんとかけることの出来る男性だった。
寝ていれば、頭を撫でたり、頬をつんと触ったりする。
泣いていれば抱き上げてあやす。
オムツも数回見ていれば、ちゃんと変えられるようになった。
低い声で話しかけて、優しく賢次の名を呼ぶ。大きな手の小指の先を、賢次の小さな湿った手に握らせて、よだれがついてもじっと愛情を滲ませた目で見つめている。

なんて優しい人なんだろうと思う。
強くて、あたたかくて、懐が広くて、そうやって振る舞える余裕がある人。

兄の賢斗さんはまだ見つからない。
そうすれば、まだ、ここにいればいい。

何も怖くない。
秀斗さんに守られて。
愛情をかけられて子が育つ。

いつの間にかこの、脆いまやかしの暮らしから、この古い広い座敷から、離れ難く思う。
まだ数日しか過ごしていないのに、こんな安心できるあたたかい場所にいたら、ここを出た時、その喪失感に耐えられるかな。

1人でまた立ち上がれるだろうか。

目をつぶって、もし本当に賢次が秀斗さんとの子供なら、永遠に続く家族なら⋯⋯ と胸が痛くて涙が出て、目を開けて、全く現実にはなっていなくて辛くなった。

取り返しのつかなくなる気持ち。

わかってる。
そんな状況じゃない。
そんなこと考える資格ない。

でも先のことを考えると悲しくて怖かった。
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