たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
︎✴︎
⋯⋯ 1週間、2週間、と日が経っていた。
数少ない彼女の私物が、少し家に馴染んできたころ⋯⋯
✴︎
賢次は、だんだんミルクの回数が一定になり、日中に日光浴をさせたり、よく構いかけていたら、夜もよく眠るようになってきた。
日々、成長していた。
ぽんぽんと叩いて寝かしつけたら、静かな夜に秀斗と2人きり。
賢斗の話になった。
行方不明だが、彼は仕事はしているらしい。
「少し変わっているんだ。昔から」
兄、賢斗の話だ。
元々、この古い家は父親が早くから長男の〈若月賢斗〉の表札を作って門にあげていた。
次男の秀斗にはすでに用意してあるマンションの方に、やはり〈若月秀斗〉の表札をあげていたのだが、古い家が嫌だと賢斗が言い、マンションに住みたいと先に出て行った。
手のかかる古い家と責任を弟に押し付けたような形になったが、元々兄弟間では、自然そうなるであろう性質と関係性だったので揉めもしなかった。生まれた順はあまり関係なかった。
ただの性格の向き不向き。
自由な気質で繊細な賢斗。
弟だが秀斗は家族の面倒を見る、それだけの度量の広さも責任感もあるタイプだった。そのままここに住んでいる。
兄が見つかれば、お互い不便なので表札を取り替えようと考えていたらしい。
賢斗の職業は税理士だそうだ。
頭も良く勉強は出来るが、なんだか生活面では抜けている芸術肌な人だそうだ。
大手の外資系の事務所に勤めている。
そこを拠点に、リモートで税理士の仕事をしていたので、どこにいてもパソコンさえあれば仕事が可能なそうだ。
「繁忙期でもないし、資料なら写真を撮って送って貰えばいいし、成り立つんだよ、今の時代」
まるで他人事のように、へー、っと聞いている彼女に、
「裏切られて行方不明になった。悪い女にでも騙されたのか? とオレは思っていたんだ」
「ちがっ」
「両思いなんだろ? 」
と言ったら、彼女がうんうんと何度もうなずく。
また2人の間に沈黙が落ちる。
言えばいい事、言いたい事が、2人の間に降り積もって落ちていた。
「兄のパソコンには連絡を入れているんだ。
既読にならない」
と秀斗が言った。
「わざと読まないんですね」
と彼女が言った。
「仕事はしている。連絡は見ているだろうから、会社に言って呼び出してもらおうかと思ったんだが、」
と秀斗は言い淀んだ。
「仕事も普通にしていている兄が、まさか行方不明だなんて、困るだろう、会社に知れたら」
とため息をついた。
特に仕事柄、当然知られたくないだろうと思う。社会的にも人間的にも、信用にかかわる。
しかし、そんなことをしでかしているのは本人であって、その現実から逃げているのなら突きつけるべきだろうと家族的にはもちろん思うので、秀斗は正直苛立つ気分だった。
秀斗は弁護士だが、世の中の人が想像するような、探偵や身辺調査とは無縁だった。小説でもあるまい、特に彼は企業関係の弁護士なので、そんな、行方不明者捜索のつてなど全くなかった。
逆に彼自身も身内の不祥事は出来れば無い方がいい。
チラリと彼女を見れば、彼女も同じように考えているのだろう。押しかけたいが、家ならまだしも、会社や警察やらと取り返しのつかない問題にすることがいいとも思えないのだった。
また、そんな風に仕事も普通にしているのだから、行方不明とはいえ、いとも簡単に連絡がつくだろうと思われる。
連絡がついてしまえば、もうここにはいられない。
秀斗さんといられなくなる。
明らかになってしまう。
すべてが⋯⋯ 。
⋯⋯ 1週間、2週間、と日が経っていた。
数少ない彼女の私物が、少し家に馴染んできたころ⋯⋯
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賢次は、だんだんミルクの回数が一定になり、日中に日光浴をさせたり、よく構いかけていたら、夜もよく眠るようになってきた。
日々、成長していた。
ぽんぽんと叩いて寝かしつけたら、静かな夜に秀斗と2人きり。
賢斗の話になった。
行方不明だが、彼は仕事はしているらしい。
「少し変わっているんだ。昔から」
兄、賢斗の話だ。
元々、この古い家は父親が早くから長男の〈若月賢斗〉の表札を作って門にあげていた。
次男の秀斗にはすでに用意してあるマンションの方に、やはり〈若月秀斗〉の表札をあげていたのだが、古い家が嫌だと賢斗が言い、マンションに住みたいと先に出て行った。
手のかかる古い家と責任を弟に押し付けたような形になったが、元々兄弟間では、自然そうなるであろう性質と関係性だったので揉めもしなかった。生まれた順はあまり関係なかった。
ただの性格の向き不向き。
自由な気質で繊細な賢斗。
弟だが秀斗は家族の面倒を見る、それだけの度量の広さも責任感もあるタイプだった。そのままここに住んでいる。
兄が見つかれば、お互い不便なので表札を取り替えようと考えていたらしい。
賢斗の職業は税理士だそうだ。
頭も良く勉強は出来るが、なんだか生活面では抜けている芸術肌な人だそうだ。
大手の外資系の事務所に勤めている。
そこを拠点に、リモートで税理士の仕事をしていたので、どこにいてもパソコンさえあれば仕事が可能なそうだ。
「繁忙期でもないし、資料なら写真を撮って送って貰えばいいし、成り立つんだよ、今の時代」
まるで他人事のように、へー、っと聞いている彼女に、
「裏切られて行方不明になった。悪い女にでも騙されたのか? とオレは思っていたんだ」
「ちがっ」
「両思いなんだろ? 」
と言ったら、彼女がうんうんと何度もうなずく。
また2人の間に沈黙が落ちる。
言えばいい事、言いたい事が、2人の間に降り積もって落ちていた。
「兄のパソコンには連絡を入れているんだ。
既読にならない」
と秀斗が言った。
「わざと読まないんですね」
と彼女が言った。
「仕事はしている。連絡は見ているだろうから、会社に言って呼び出してもらおうかと思ったんだが、」
と秀斗は言い淀んだ。
「仕事も普通にしていている兄が、まさか行方不明だなんて、困るだろう、会社に知れたら」
とため息をついた。
特に仕事柄、当然知られたくないだろうと思う。社会的にも人間的にも、信用にかかわる。
しかし、そんなことをしでかしているのは本人であって、その現実から逃げているのなら突きつけるべきだろうと家族的にはもちろん思うので、秀斗は正直苛立つ気分だった。
秀斗は弁護士だが、世の中の人が想像するような、探偵や身辺調査とは無縁だった。小説でもあるまい、特に彼は企業関係の弁護士なので、そんな、行方不明者捜索のつてなど全くなかった。
逆に彼自身も身内の不祥事は出来れば無い方がいい。
チラリと彼女を見れば、彼女も同じように考えているのだろう。押しかけたいが、家ならまだしも、会社や警察やらと取り返しのつかない問題にすることがいいとも思えないのだった。
また、そんな風に仕事も普通にしているのだから、行方不明とはいえ、いとも簡単に連絡がつくだろうと思われる。
連絡がついてしまえば、もうここにはいられない。
秀斗さんといられなくなる。
明らかになってしまう。
すべてが⋯⋯ 。