たぶんあなたの子です? 認知して下さい!
︎✴︎


グスッ


双子とはいえ、離れて育った微妙な距離のある姉妹。
もう姉も赤ちゃんも、賢斗に任せておけばいい。


グスッ


なんか泣ける。

ちょっと分かる、姉の気持ち。
何もなくて釣り合わない自分、とっさに虚勢を張って精一杯頑張ってしまったのが。
釣り合わなくて確かめるのすら怖くて、1人で逃げてしまった気持ち。

何もなくて、むしろすべてがマイナスしかない自分自身。
秀斗に全てを話せなかった。
同情されるのも、助けてもらうのも怖かったから。

廊下に出て、後ろ手にドアを閉めた。
一緒に部屋を出た秀斗はかなり怒っている。
車の中から彼は不機嫌だった。

突然、秀斗が言った。


「兄は骨折してたんだ」


それから、彼女の方をジロリと見た。


「子が出来たのは入院中だった。だから、わからないはずないんだ」

「⋯⋯? 」


彼女は秀斗の顔を見た。
秀斗もその目を見返した。


「だから、最初からわかってたんだ」


と秀斗がつぶやいた。


「正常位はありえない、骨折中で起き上がれなかったんだから」


︎内容を理解して、真っ赤になって、横の秀斗を見上げたら、彼が大きな掌で、グイッと頬を包んで顔を秀斗に間近にむけた。


「しかし君はもっとみる目を養った方がいい! 」


と秀斗は怒った声で言った。


「オレがそんな男に見えるか⁈ まず不倫していたり? 顔もわからない女性を妊娠させたり、困っている甥を見捨てるような? 」


秀斗は顔を覗き込んだ。


「ちゃんと見るがいい。しかもオレは君を愛してる」


愛してる⋯⋯ 。


「言ってくれ、ただ、困っていると、オレの助けを必要としていると」


だだ、困っていると⋯⋯ 。


「オレに言え。他の誰にでもなく」


オレに言え⋯⋯ 。


「素直に言って欲しいんだ、それだけだ。オレだけを頼って欲しいんだ。それだけで何でもしてやりたいんだ」


✴︎


それだけでいい。


✴︎


「いつから⋯⋯ 変だって思ったんですか? 」

「はじめからだ。君はなんていうか、慣れてなかった。恋人の顔がわからなかった」

「はじめから⋯⋯ ? 」

「キスした時、初めてだと言った。印象がチグハグだった」

「聞こえてたんですね⋯⋯ 」

「君の名前は? もう一度ちゃんと教えてくれ」

「ゆき。松永ゆきです」

「ゆき」


と初めて彼に名前を呼ばれた。


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